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※俺だけでは不足ですか。

「遥さん、まだ寝ないんですか?」 録画しておいた動物特番を見ていた俺に風呂から上がった侑司が歯ブラシを咥えたまま声をかける。 「これ見てから」 「もう12時過ぎますよ、明日も仕事なんだから早く寝ましょう」 俺の口に歯ブラシが突っ込まれる。 歯ブラシをゴシゴシ動かしながらも画面から目が離せない。 いい。 やっぱり動物はいい。 何か足りないと思っていたが、今の俺に足りないのは癒やしだ。 無償の愛だ。 「侑司!動物が欲しい!」 「ダメです!」 被せぎみに却下された。 その日、引っ越してから初めて別々に寝た。 「仲直りしてください遥さん……」 目の下に隈を作った侑司が俺の後ろをトボトボと着いてくる。 眠れなかったらしい。 平気そうな振りをしてる俺も後ろから抱き締める腕がなくウトウトしかできなかった。 喧嘩の原因はなんだっけ。 あぁ、そうだ、動物だ。 あんな頭ごなしにダメって反対することないだろ。 会社に行ったがいつもと違う俺達に真由ちゃんが一人あわあわとしている。 響子さんはちらっと見てからため息をついた後は知らん顔、 泰生さんは気にしてない振りしながらも時折心配そうな視線を寄越す。 昼休みになった途端響子さんに呼ばれ、会社近くのカフェに連れて行かれた。 「喧嘩の原因は」 身長は俺の方が高いのにこの高圧的で常に上から見下されている感は何故だろう。 「変な空気にしてごめんなさい、響子姉さん」 「原因」 求めた答えじゃないとこうなる。 昨夜のやりとりをざっくり話すと盛大なため息をはかれた。 「何歳なのよ、あんた達」 「……ごめんなさい」 いい歳してお説教を食らう。 情けない。 「簡単に動物欲しいとか言わないの!動物飼ったら世話はもちろん動物によっては予防接種あるし、旅行も気楽に行けないし、人間より気を遣わないといけないのよ」 「……はい」 「遥くんは動物飼うのに向いてない。テレビで見るかペットショップ行くとかで我慢しなさい」 「……………はい」 頼んだランチがきて一旦話しが止まる。 「ペットなんかいなくても充分でしょ」 「え?」 「侑司くんよ」 いつ見ても響子さんの食べ方は綺麗だ。 「どうしてもペット飼うなら侑司くんは私が貰っちゃうわよ」 「え?」 「どうせペット飼ったら遥くんは侑司くん放ったらかしにするでしょ。あんなに尽くしてるのに可愛そうじゃない。私ならちゃんとかまってあげるし今より可愛がってあげられる自信があるもの」 ふふんと笑う響子さん。 「侑司くん、女がダメって訳じゃないでしょう?」 響子さんが女豹に見えてきた。 「動物は飼わない!侑司も渡さない!いくら響子姉さんでも絶対ダメ!」 思わず立ち上がってしまった。 響子さんがニヤリと笑ってパスタをちゅるんと啜る。 「それ、私に言うことかしら?」 一口も食べてないランチを前に財布を出すと、 食べなさい!もったいないことしないの!と発情期の猫のような声で怒られた。 おっしゃる通りです。 ランチを美味しくいただいた。

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