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俺はおちおち眠れません。

「侑司、なぁ、舐めていい?」 もちろん!嫌なんて言う訳ないです! 「ん、侑司の…好き」 遥さん… 肝心な部分が聞こえない。 もっとハッキリ、でも恥ずかしそうにというか、ちょっと照れたように言ってくれたら、もう、もう俺はそれだけで。 あぁ、そうです、遥さん。 瞬きしたら涙が溢れそうな濡れた目の上目遣い、もはや兵器です。 あぁ、なんて色っぽい。 あれ?ちょっと痛いです、遥さん。 噛んでます? あの、甘噛みくらいなら守備範囲というか、大歓迎なんですけど、 ちょっと本気入ってません? 遥さん、いたずらっ子のような、小悪魔みたいな笑顔もいいですね… 「痛っ!」 自分の声で目が覚め、夢だったのかと項垂れた。 なんていい夢だったんだろう。 まだ感触が残っている気がする。 チェストの上のライトを付けて横を見ると、遥さんが俺の腕を夢中で舐め噛んでいた。 眠りながら。 俺の腕は遥さんの涎まみれ、当然遥さんの口も涎まみれ。 あぐあぐと口を動かしながら噛んでいる。 ………可愛い。 時々遥さんは寝惚ける。 寝惚けた遥さんもとびきり可愛い。 噛まれた腕は少し痛いが、可愛い遥さんが見られるなら痛みなんてどうってことない。 「………………キモい!」 那奈が顔を顰めて言い捨てた。 およそニ年ぶりに会う兄に対してこの仕打ち。 那奈は大学進学で実家を離れ、そのまま就職したため近くには住んでいない。 友達の結婚式があるから帰るついでにご飯奢ってよと連絡が来たのが昨日。 那奈には遥さんのことを話していたが、俺の遥さんがどれほど可愛いか知らない那奈に教えてやったのに、それをキモいのたった三文字で斬り捨てた。 「いつからそんなど変態になったの?あ、前からだっけ」 「変態じゃない。遥さんにだけだ」 一皿1980円もする上カルビの肉を菜箸でざあっと掬うと焼網にぼさっと落とす。 相変わらずガサツすぎる。 このガサツさは父似だ。 ぼさっと落とされた肉を広げて焼くのは俺の役目とばかりに無言でトングを顎で示す。 妹じゃなければ絶対に一緒に食事などしたくない。 「そんなんじゃーさー遥さんにすぐうっとうしがられない?」 「遥さんも俺に惚れてるから大丈夫だ」 「惚気うざーい、そしてキモーい」 うえーっと顔を最大限に顰めて舌を出す那奈は黙ってればそこそこ見れるのに。 見れたところで中身がおっさんだからどうにもならないが。 「俺は幸せだからいいんだよ。それよりお前はどうなんだ、彼氏できたのか?」 「彼氏とか面倒くさい。これまでの彼氏で懲りた。 短いスカートは履くな、胸の開いた服は着るな、高いヒール履くな俺がチビに見えるだろ、って実際チビなんだから仕方ないじゃん? だいたい人に見せるために選んで服着てないし。自分で着たい服着て何が悪いの! 本当男ってくっだらない」 ため息しか出ない。 いや、間違った、ため息しか出させてくれない。 口を挟む隙がない。 これから遥さんが合流するっていうのに、こんな妹を会わせてもいいのだろうか。 「ごめん、遅くなった」 ポンと肩を叩かれ仰ぎ見ると愛しい人。 那奈のしかめっ面を見続けたせいか、いつもよりさらに遥さんが輝いて見える。 退社寸前で電話が鳴りその応対をした遥さん。 少し切れた息を整えるように大きく息を吐いた。 「こんばんは、初めまして」 俺の隣に腰を降ろしながら遥さんが那奈に挨拶をする。 「水元遥です。那奈ちゃん、だっけ?」 俺が頷くと遥さんは那奈にニコッと可愛い笑顔を向けた。

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