頭からシャワーを浴びせながら思い出す。 今日の午前中登録に来たお客は若い女性。 大学生だった。 今朝ラインで響子さんから『生理痛』とだけ通知が来て、俺は響子さんの代わりに外廻りの仕事に当たっていた。 響子さんにとって弟の俺にはそういう女性特有の体調の悪さも暴露されるが、普段一人で頑張る響子さん、代わりをやることくらい何でもない。 一旦外廻りを終えて戻ってきたらコンビニの前にいる侑司と若い女性がいるのを見てしまった。 わざわざドアの外まで見送りに来たのか。 そう思うだけで胸がもやっとしたが、俺に気付いていない二人の脇を通り過ぎようとした時。 「これ、お願いします」 「約束は出来ないですが…」 女性からメモのような物を受け取る侑司が見えた。 もう見慣れた光景。 侑司はいつも受け取らない。 なのに、なんで受け取るんだ。 いつもは申し訳なさそうな顔をしながら断るのに。 その情景がありありと思い出されて、一旦落ち着いていた感情がまた腹の奥で燻り始める。 独占欲。 嫉妬。 どっちが自分のこのぶすぶすとしている感情にぴったりの名前なのかわからない。 両方なのか。 接客業をやっていく限り恐らくこの感情は一生ついて回る。 無駄に整っているあの顔に本当に鼻の横にどでかいホクロを毎朝油性ペンで書いてやろうか。 「くそぉ……」 思わず吐き捨てたとほぼ同時に風呂場のドアが蹴破られる勢いで開けられた。 「遥さんっ」 「ぅおおっ！！」 叫んで飛び退いた勢いでシャワーが侑司の顔から下を濡らしていた。 「なっ、何だよっ、急に開けるなよっ」 「すいません、あの、もしかして、見ました？コンビニの前で、あの」 濡れたせいで目を隠しそうな前髪を侑司が頭を振った後でかきあげた。 どくんと鳴った心臓といつまでも見つめてしまいそうな目を隠すように身体ごと侑司から背ける。 「見た」 「あの、ごめんなさい、わざとじゃないんです、嫌だなとは思ったんですけど、今の今まで忘れてただけなんです！」 取り繕うような慌てた声。 情けない。 みっともない。 いい歳した男がたったあれだけのことで拗ねて恋人を困らせている。 侑司の気持ちはちゃんとわかってるのに、なんでもっと余裕が持てないんだろう。 「遥さん、あの…」 「寒いから閉めて」 「…はい」 熱いシャワーを浴び直し風呂から出るとリビングのラグの上で侑司が正座をしていた。 侑司の膝の前に小さな白い紙。 「それ、何？」 「連絡先だそうです…」 「あぁ、あの子の？」 「はい…」 「連絡するつもりで受け取ってきたの？」 「はい……………え！？」 がばっと上げられた顔は驚きで埋め尽くされている。