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俺が家族になります。

「父さんは警察官、母さんは小学校の教師。俺の件で母さんは仕事を辞めた。小さい町だから想像つくだろ」 缶コーヒーを一口飲んで遥さんは苦笑いする。 「元々父さん達の期待は兄ちゃんで、兄ちゃんは頭もいいしなんでも出来たから。俺は容量だけ良くて、でもそれだけ。」 潮の香りがきついな、とまた遥さんが笑った。 「婚約の挨拶に来た時も兄を差し置いてお前が先に結婚するなんて、と父さんから嫌味を言われたよ。祝福とはほど遠かった。 弟なんだから結婚式はするなと言われて、泣く里香を慰めながら帰ったよ」 冷たかった缶コーヒーが俺の手の中で温くなっていく。 「俺は昔からだし慣れてる。兄ちゃんと華さんがすっげー祝福してくれたし、向こうのご両親も内々でのお祝いでって言ってくれたし、俺はそれで良かったんだよ。でも里香はずっと我慢してたんだ」 思い出したように遥さんの顔が歪む。 缶コーヒーを持つ指先が白い。 その手を握りしめたかったが、俺の手は自分の持つ缶コーヒーからぴくりとも動かなかった。 「結婚式もやりたかっただろうし、ドレスも色々迷いたかっただろう。招待状を送る作業も席順で揉めたりって結婚式をするなら当たり前のことを里香は泣きながら諦めてくれた。 だから、あの時里香を責められなかった。 先に酷いことをしたのは、それを無理に飲んでもらったのは俺だから」 ……俺ならそう思うだろうか。 いくら女性と結婚式に対する思いが違うとしても。 俺ならやっぱり裏切りを許せないし、責めてしまう。 ご両親を説得できなかったことで遥さんも負い目を感じていたのだろうか。 その時側にいたかった。 今のように付き合えなくても、一番辛い時に遥さんの側にいたかった。 あり得もしない事を思い、悔い、気が付けば唇を噛み締めていた。

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