104 / 211

俺が家族になります。

「想像してたのよりキツかったのは、話しを聞いた両親から呼び出されて、理由も俺の話しも聞こうとせずに向こうからの話しだけを信じて二度とここには戻ってくるなと言われた時。 信じてほしかったんだなとまだ期待してた自分がショックで馬鹿らしくて」 遥さんの目から涙がぽろっと溢れた。 溢れた涙は大きな粒になり、ボロボロと頬から遥さんの手や服に落ち濡れたシミを作っていった。 「遥さん………」 車の中での不自然な体制で、でも可能な限り抱き寄せ抱き締めた。 ご両親のことに口を開けば悪口しか出てこない。 それこそ言葉で殺せるんじゃないかというほど言いたいことはある。 だけど、違う、今伝えたいのは、言いたいのはマイナスなことじゃない。 「遥さん、俺はずっと遥さんと一緒にいます。 遥さんが好きです、大好きです。遥さん以外いりません」 うん、と肩に乗った頭が動く。 「遥さんを絶対に裏切りません。ずっと、一生、よぼよぼになっても一緒にいます、いたいんです」 うん、とまた頭が動く。 柔らかい髪を撫でその髪にキスをする。 「疑わず、俺を信じてくれますか」 うん、と、うんうん、と頭が動いた。 苦しく切ない泣き声がやむまで遥さんは顔を上げず、俺はずっと背中や髪を撫で続けた。 優しいこの人をこれからは俺が守っていくんだと一人誓った。 「帰ろうか。泣きすぎて疲れた。家のあのベッドで寝たい」 赤く腫れた瞼を擦りながら遥さんが笑ってくれたのは夕方の空に代わる頃だった。 軽トラがマイクで鯵ー、いかー、安いよーと放送しながら走っている。 「あれ、何ですか?」 「この辺じゃああやって魚売りに来るの。捌いてもくれる」 「あ、鯖も安いって言ってますよ、買って帰ります?」 俺の言葉に遥さんがふはっと笑った。 「さっきプロポーズみたいな台詞言ったヤツと同じ人物とは思えねーな」 いつもの笑顔に俺も自然と笑っていた。 「何言ってるんですか!本番はあんなものじゃないですからね!」 「自分でハードル上げてどーすんだよ。さーて帰るぞ」 エンジンが不機嫌そうな音を立てて動き出す。 腫れぼったい目で笑う遥さんはいつものように綺麗で可愛いかった。

ともだちにシェアしよう!