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俺は猛獣使いにはなれません。

それからの食事会ではいつものように水元兄弟が順調に酔っ払い、華さんは本当にザルで水を飲むように焼酎のロックを煽り、 水元兄弟が箸の袋でうさぎやら亀やらを折り昔話の再現をし始めたところで、 華さんがお開き!と鶴の一声をあげ解散の流れになった。 お会計はいつものように薫さん。 はよし、お会計でもたもたする男はカッコ悪いやん、はやく、はーやーくー、と華さんに急かされながらも薫さんはニコニコ笑いながら財布を出し清算した。 会計を終え店を出ると、俺たちより先に華さんが綺麗なお辞儀をして薫さんにお礼を言った。 「ご馳走さまでした。薫くん、いつもいつもありがとう」 いいえ、と微笑み返す薫さんが華さんの髪の乱れを優しく直す。 ほら、何してんの、あんた達もお礼言わんと!と華さんに突かれ、慌てて俺たちも礼を言う。 今言おうとしてたんですけどね。 そう言おうとした俺の足が靴ごと遥さんに踏まれた。 いつの間にかタクシーを捕まえた華さんが薫さんの腕を引きタクシーに押し込む。 華さんは俺たちが見えなくなるまで振り返ったまま車内で手を振り続けていた。 「華さんて素敵な女性ですね」 「ん?まぁ、うん、そう、だな…」 なんとも言えない表情で頷く遥さん。 「けど、兄ちゃんを任せてもいいと思えるのは華さんだけかな…」 「寂しいですか?」 「前は、少しな」 「今は?」 家への方向へと二人で足を向ける。 「今は、お前がいるから寂しくない」 遥さんの耳が赤い。 赤く染まった耳が見えるほど明るいここでは抱き締められない。 「早く帰りましょう」 背中をそっと押しながら言った俺を遥さんが見上げふわっと微笑んだ。 浮気なんて絶対にしませんから。 そう囁いた俺の耳を遥さんが引っ張った。 もっと耳を赤く染めながら。

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