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俺と育ててくれますか。

今日は珍しく暇だ。 みんなが揃って事務所で昼食なんて今まであっただろうか。 椅子をガラガラと引っ張ってきて一箇所に集まり各々が食べ始める。 響子さん泰生さん真由ちゃんは手作りのお弁当、遥さんと俺はコンビニで買ってきた弁当だ。 弁当に入っていた紅しょうがを一本ずつ俺の弁当に放り込んでる遥さんをニコニコと見守る俺を見て響子さんが呆れたようなため息を吐いた。 「ねぇ、飽きない?」 「「え?」」 遥さんと俺が同時に顔を上げた。 「家でも一緒、仕事も一緒、どうせ寝る時も一緒でしょ」 寝る時も一緒、の言葉に真由ちゃんが表現できない言葉を発して目を輝かせた。 「全然飽きない」 「ですね」 顔を見合わせてうん、と頷き合う。 真由ちゃんの口から飲み切れなかったゼリー飲料がたぽたぽと溢れ、遥さんが慌てながら真由ちゃんの服やら机やらを拭いている。 「そもそも二人でいる時って何してんの?」 「何って」 「特に何も」 なぁ?とまた顔を見合わせて頷いた時、机に置いていた真由ちゃんの携帯が震えた。 「じゃあお二人ともラインとかあまりしてない感じですか?」 別々に暮らしていた時はやり取りがあったが、 今はそれこそ四六時中一緒にいるため、繋がっているだけになっている。 「ラインのこのもどかしい感じとかいいですよねぇ。会いたいのに会えない、みたいな」 「会いたいのに会えない…」 遥さんが食い付いている気がする。 「会いたいなら会いに行けばいいじゃない」 響子さんがちくわの磯部揚げに噛みつきながら言い捨てた。 「響子さん、違うんですよ、会えない時間が愛を育てるんですってば。 会いたい時に会えないもどかしさや話したいのに話せない狂おしさが愛を燃え上がらせるんです」 「………………………へぇ」 完全に興味のない返事をすると響子さんは泰生さんの弁当から卵焼きを取り上げにかかった。 泰生さんが弁当の蓋で防御している。 そんな二人をよそに遥さんと真由ちゃんは燃え上がるの?燃え上がるんです、とよくわからない話題で盛り上がっている。 何やら嫌な予感がした気がしたけど、気のせいだった。 紅しょうがのせいでやたら紅くなった弁当を眺めてから腹に収めた。

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