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俺、正直になっていいですか。

嫌な予感がした。 外回りを終えてからふと気が付くと華さんの店が近い。 うっかり会ってしまうと面倒だ。 早く離れよう。 そう思っていたところスーツのジャケットの裾が後ろからぐんと引っ張られた。 「やっぱり!遥くんやない。顔見せに来てくれたん?」 まさか。 そんなこと一生しない。 言える訳もなく曖昧にうんと答えると華さんが俺の顔をまじまじと見つめた。 「なんか変な顔しとるね、発情期の雌猫みたい」 「はつ!?メス!?」 「なんかエロいってこと、褒めとる褒めとる」 掴んだジャケットの裾を持ったまま華さんは店の方へとずんずん歩いて行く。 「ちょっと華さん?」 「うちな、今日棚卸しで閉めてんの。棚卸し終わったけん、お茶でもしよ」 抗うのは諦めてため息を吐いた。 連れて来られたのはやっぱり華さんの店。 華さんは海外の雑貨を取り扱う店の店長をしている。 雇われ店長なんかでは終わらんよ!が口癖らしい。 中身がバッファローなのに反して掃除好きで整頓好きらしく、兄ちゃんと暮らす部屋はいつも綺麗で明るくいい匂いがしていたのを思い出す。 座り、と示された椅子に腰を下ろすと奥の休憩所からペットボトルの飲み物を持ってきて渡してくれた。 「ごめんね、部屋やったら美味しいお茶入れてあげれるんやけど、火気厳禁やから」 消防法突破してそのうちつけるけん、と無茶を口にしてからニコッと笑う。 「で?発情期なんやったら襲ったらええのになんでそんな悩ましげにお預け食らったみたいな顔してんの」 色々つっこみたいところはあるが、口をつぐんだ。 「男女と男男やと違うこともあるやろけど、同じとこもあるやろ。独り言みたいにゆうてみ?」 いつになくバッファローを潜めた華さんにぽつりぽつりと漏らした言葉を華さんは相槌も打たず首を振るだけで聞いていた。 「すっかり臆病になって。かわいいなぁ」 そう言うと俺の髪をわしわしと乱暴に撫でる。 「薫くんな、一年手出してこんかったんよ」 知っとった?と聞かれてもそんなこと知るはずもない。 「ほら、見た目ちっちゃいやん?壊しそうで怖かったんやって。エッチして壊れるわけないやん、ねぇ?」 今は普通にしてるよ、と聞きたくないことまで暴露されて何故か、兄ちゃんごめんなさいと心の中で謝った。 「話しにくい話題やけど、やけんこそ話してもらえたら嬉しいよ。一対一やけんこそ話さんとわからんやろ?わからんことも聞いたらええし。 侑司くんは遥くんのこと大事に思うてるからちゃんと聞いて受け止めてくれるよ」 一人で我慢されてるほうがうちは嫌やけどなぁ。 華さんがポロリと零した言葉に、うんと頷けた。 俺も侑司が一人で悩んでいたとしたら嫌だ。 「兄ちゃんがもっとしたいって言ったら華さんどうする?」 「いやーやっぱりぃ?うちの魅力って凄いんやぁ!って思う」 聞く人を間違えた。

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