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俺の愛する人。
遥さんの言う通りだ。
俺の一存で決めて話していいことではなかった。
喧嘩したその日、遥さんはそれ以上何も話さず、前の部屋から持ち運んだ家具を置いてある部屋に閉じこもるように俺と離れた。
怒っていて口をきいてくれなくても、起きたら朝ごはんが出来ていたし、仕事から帰ってくれば夕飯をいつものように作ってくれた。
遥さんは予備の部屋にすぐ閉じこもり、一緒に食べてはくれなかったが、いつもと同じ生活を俺に与えてくれた。
俺のことなんか放っておいても何とでもなるのに、
怒っているのに、
同じくらい悲しんでいるのに、俺に日常をくれる。
そんな遥さんを泣きそうなほど愛しいと思った。
食事を終え食器を洗いに出て来た遥さんを必死の思いで呼んだ。
「すいません、遥さんの気持ちを確かめずに勝手なことをしました。
どうしたら話してくれますか」
遥さんは俺の方を見てくれない。
もし、振りほどかれたら。
そう思うと怖くて触れることが出来ない。
怖い。
この人を失いたくない。
絶対に失いたくない。
「遥さん、嫌です!絶対に俺は遥さんの側から離れません!」
声が震えた。
遥さんは何も応えず、キッチンに消え、手に持っていた食器を片付けてから俺の前にゆっくりと来てくれた。
「ご両親からの反応はあった?俺とのことを話してから」
視線は合わせてくれないけれど、遥さんが話してくれた。
それだけで鼻の奥がつきんと痛む。
ソファには座らず、リビングのラグの上に二人とも腰を下ろした。
「継ぐような家柄でもない、普通の家庭なので反対はされてないです。那奈にも連絡がいったみたいで、那奈が」
「那奈ちゃん?」
遥さんが顔を上げた。
三日。
たった三日。
遥さんが俺を見てくれなかったのはたった三日なのに、
見つめられるだけで心臓がばくんと音をたてた。
「那奈が、私が婿養子とって子供たくさん産むからおにぃと遥さんの反対はするなって両親にいったそうです」
反対しないで、じゃなく、するなって言い方が那奈らしい。
遥さんは無表情のまま。
無表情のまま大きな目から大粒の涙が一気に溢れ出す。
「は、遥さん…」
「那奈ちゃん、彼氏いたっけ…」
「いません。こないだ出来た彼氏は付き合って四日目で浮気されたらしくて、
下の毛剃り落とした挙げ句に股間蹴り上げてやったってラインが……」
「婿養子とか、何年先になるんだ…」
「さぁ…でも那奈をあんな風に育てたのは多少両親の責任でもあるんで…」
ふはっと遥さんが笑った。
まだ目からは大粒の涙がほろほろと溢れているが、笑っている。
抱き締めたい。
抱き締めて涙を拭き、拭ききれない涙は吸い取りたい。
遥さん、いいよって言ってください。
いつもみたいに、抱っこってお強請りしてください。
俺はまだあなたに触れてもいいですか……
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