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俺の愛する人。
「侑司」
名前を呼ばれても声が出なかった。
名前を呼ばれる、そんな当たり前がこの三日間当たり前ではなかった。
「俺はお前を失いたくない。離れたくない。そのためなら何でも出来ると思う。
でも、ご両親が相手となると、俺はたぶん……」
口に出すのすら嫌だ、怖い。
そう言って遥さんは唇を噛んだ。
「まともに相手してもらった記憶も、何処かに遊びに連れてってもらった記憶もない、俺の両親でさえ、今のこの状況は辛い。
本当なら結婚して子供を持ち、祖父母になった両親に生をもらった恩を返したい。
でも、もう俺は無理だ。
例えお前と…、ダメになったとしても結婚は出来ないと思う」
遥さんの膝に置かれた手がぎゅうっと握られる。
「お前にはご両親とそんな風になって欲しくない。俺との事でご両親とお前の仲が悪くなるなら……」
止まりかけていた涙がまた溢れ出す。
身体が動いていた。
手を伸ばし遥さんを抱き締めた。
髪を撫で、髪に顔を埋めるようにしながらキスをした。
俺の携帯が着信を告げる。
こんな時に!
画面を見るとおっさん那奈から。
着信を切りまた遥さんの身体を両手で抱き締める。
間髪置かずにまた着信がきた。
「…出ていいよ」
出たくない。
今この状況でおっさんのような妹の声なんか聞きたくない。
それより遥さんを抱きしめていたい。
着信は鳴り続けている。
着信を受け、スピーカーにした。
遥さんを離したくなかった。
「早く出てよ!!!」
ドスのきいた低い声が響き渡った。
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