154 / 211

俺の愛する人。

「侑司」 名前を呼ばれても声が出なかった。 名前を呼ばれる、そんな当たり前がこの三日間当たり前ではなかった。 「俺はお前を失いたくない。離れたくない。そのためなら何でも出来ると思う。 でも、ご両親が相手となると、俺はたぶん……」 口に出すのすら嫌だ、怖い。 そう言って遥さんは唇を噛んだ。 「まともに相手してもらった記憶も、何処かに遊びに連れてってもらった記憶もない、俺の両親でさえ、今のこの状況は辛い。 本当なら結婚して子供を持ち、祖父母になった両親に生をもらった恩を返したい。 でも、もう俺は無理だ。 例えお前と…、ダメになったとしても結婚は出来ないと思う」 遥さんの膝に置かれた手がぎゅうっと握られる。 「お前にはご両親とそんな風になって欲しくない。俺との事でご両親とお前の仲が悪くなるなら……」 止まりかけていた涙がまた溢れ出す。 身体が動いていた。 手を伸ばし遥さんを抱き締めた。 髪を撫で、髪に顔を埋めるようにしながらキスをした。 俺の携帯が着信を告げる。 こんな時に! 画面を見るとおっさん那奈から。 着信を切りまた遥さんの身体を両手で抱き締める。 間髪置かずにまた着信がきた。 「…出ていいよ」 出たくない。 今この状況でおっさんのような妹の声なんか聞きたくない。 それより遥さんを抱きしめていたい。 着信は鳴り続けている。 着信を受け、スピーカーにした。 遥さんを離したくなかった。 「早く出てよ!!!」 ドスのきいた低い声が響き渡った。

ともだちにシェアしよう!