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俺の愛する人。
「おにぃ帰れ」
命令口調で那奈に言われ我に返る。
来いって呼んでおいて、帰れって。
「遥さんに会いたいって顔に書いてあるんだもん。そんな人にお祝いされても嬉しくないし」
それに、と那奈が笑う。
珍しく可愛い。
「プレゼントありがとう、って伝言頼まれてよ」
ラインで繋がっているんだから、わざわざ俺が伝言するまでもない。
那奈なりの気遣いだと解り、頬が緩んだ。
「お兄ちゃん、お母さんも伝言!遥さん、美人ね、って」
「お母さん、そうじゃなくて、プレゼントありがとうとかだろ。お父さんはこれ飲んで今日は酔っ払います、って」
「お父こそそれいらない伝言だよ」
やぁやぁとうるさくなった家族を前に笑みが溢れる。
「帰るわ」
そう言って立ち上がった俺を家族が見上げた。
「気をつけて」
挨拶もそこそこに実家を飛び出し遥さんの元へと急いだ。
遥さん、遥さんと暮らすあの部屋がもう俺の場所です。
ずっと、何年経っても、あなたといる場所が俺の場所になるんです。
それを伝えたい。
急ぐ思いの俺を乗せた電車はいつものようにガタンゴトンと走る。
きっと俺を待つ、愛しい可愛い人の元へと、真っ直ぐなレールを辿って。
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