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※俺の溢れる思い。

「侑司くん、ちょっと」 始業前に響子さんに呼ばれた。 給湯室ではなく、面接する部屋。 声が漏れない面接室。 何かやらかしてしまったのだろうか。 「侑司くん、遥くんに何したの」 予想してた話しではなかったせいで反応が遅れた。 「何、とは」 「遥くんのあの色気。真由ちゃん見てよ」 俺の遥さんはいつも綺麗で可愛く色っぽい。 今更何を言ってるんだ。 そう思いつつ上半身がガラスになった面接室から事務所を覗く。 自分の机でパソコンのキーボードを叩いている遥さん。 昨夜抱いたせいか気怠げな表情がまた悩ましい。 真由ちゃんを見てみると肩で息をし、鼻息も荒く目を潤ませながら遥さんをガン見していた。 「仲良しなのはいいけど、少し控えたら?あんなフェロモン垂れ流しの遥くんだと真由ちゃんが仕事にならない」 フェロモン。 そうか、フェロモンだ。 最近一段と色っぽいと思っていたのはフェロモンが関係してたのか。 俺の遥さんは一体どこまで綺麗で妖艶になるんだろう。 もっと歳をとって今より更に大人になった遥さんなら視線だけで俺を果てさせるようになるかもしれない。 ふくらはぎに激痛が走り、俺の素敵な妄想が強制終了させられた。 響子さんの蹴りが入れられたらしい。 「ニヤニヤしてるとこ悪いんだけどね」 ちっとも悪いと思っている顔ではない。 「今の遥くんだとヤバイわよ。 これまでだってモテてたのに、あんなムンムンさせてたら即効押し倒される」 いいの?と顎をしゃくられる。 いい訳がない! 遥さんは俺の、俺だけの遥さんだ。 押し倒していいのもむしゃぶりついていいのも俺だけだ。 「でも、具体的にどうすれば…」 「さぁねぇ…禁欲したら?」 禁欲? き ん よ く ? 「禁欲、とは…」 「挿れるな触るなってこと」 挿れるな、はともかく、触るな!? 「い、いや、それは無理…」 「覚えたての高校生でもあるまいし、社会人なら節度ある性生活を」 ね?と首を傾げてニヤリと笑う響子さんはもしかしなくても面白がっている。 「賭けしない?2週間禁欲できなかったら春風亭のそうね、ランチ奢って。ディナーは勘弁してあげるから」 春風亭は会社の近くにあるレストランで、ディナーはコースで35000円もする。ランチでも2500円。 庶民の俺は一度も入ったことすらない。 「俺が勝ったら…?」 「遥くんの昔の写真なんてどう?私の息子とじゃれ合う笑顔の遥くんとか」 写真嫌いの遥さんはほとんど撮らせてくれない。 俺の携帯にも五枚あるかないかだ。 その遥さんが笑っている写真。 貴重だ。 春風亭のランチなんかよりずっとずっと価値がある。 「……やります!」 「一応言っとくけど、遥くんの貞操の危機を脱するための賭けだからね」 「もちろんです!」

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