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※俺の溢れる思い。
週末が開け、仕事をする日常が戻る。
出勤してきた響子さんを捕まえ面接室に連れ込んだ。
「春風亭のランチ奢ります」
俺が言うと響子さんはニヤッと笑った。
「ごちそうさま」
そう言ってから携帯を取り出しラインを起動させる。
会社のグループラインの画面にし、写真ファイルを開く。
スイスイとネイルを施した綺麗な指先が画面の上を滑る。
「遥くんの写真載せた。見つかったらすぐ消さなきゃいけないから保存した方がいいわよ」
慌てて面接室から飛び出し自分の席に戻る。
驚いた顔の遥さんを横目に携帯を取り出しグループラインの画面をイライラしながら開く。
小さい男の子を抱き締めた可愛い笑顔の遥さんがこっちを見ている。
「はぁ〜可愛い…」
「は!?」
俺の手元から携帯を覗き込んだ遥さんがぎょっとした声を出した。
「なっ、何でこれ…響子姉さん!!」
「いいじゃない、可愛く写ってるんだから」
「俺が写真嫌いなの知ってるだろ?」
マットで音は吸収されているのに、カツカツとヒールの音が聞こえるようだ。
響子さんは遥さんの側まで歩いてくると、人差し指で遥さんの顎をくいと持ち上げる。
「彼氏は満足そうよ」
ほら、と遥さんの顔を俺の方に向ける。
ニコニコと笑う俺を見て遥さんがため息をついた。
ひゃーっ!と黄色い声が真由ちゃんから聞こえる。
しまった。
グループラインだから真由ちゃんにも可愛い遥さんが見られてしまった。
「真由ちゃん、ダメ!それ、俺のだから」
「もう遅いですよ、保存して家のパソコンに転送しましたぁ」
「ダメだって!俺の遥さんだから!」
「侑司さん、包容力のない男性は魅力ないですよ」
真由ちゃんの言葉にすぐさま反論する。
「俺は遥さんにだけ魅力を感じてもらえればそれでいいの!」
きゃー!!とまた黄色い声が耳に痛い。
「って、彼氏言ってるけど?」
響子さんが遥さんを見る。
「俺の彼氏は誰よりも魅力的だよ」
遥さんが照れたように早口で言い切った。
真由ちゃんはへなへなとその場に座り込み真っ赤な顔で震えている。
あんまり惚気るとディナー奢りに変更するわよ。
響子さんがジロリと俺を睨んだ。
もうランチもディナーも奢ります。
遥さんが側にいてくれるなら俺は無敵です。
ニコニコと笑う俺のふくらはぎに響子さんの蹴りが入る。
いつもより重たい蹴りだったが、それでも俺は笑っていた。
真由ちゃんを立たせに行っていた遥さんが俺を見て笑う。
さっきの発言の名残りでまだ耳が赤い。
帰ったらその耳を齧らせてくださいね。
困ったように笑いながらも俺の好きなようにさせてくれる遥さんを想像し、また笑みが漏れた。
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