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俺の好きな季節。
「侑司」
ウォークインクローゼットで着替えている俺を遥さんが呼んだ。
「天気予報、午後から雨だって」
「さらに冷えそうですね」
「ん」
ネクタイを締めかけた俺の手を遥さんが止める。
代わりに遥さんの手がネクタイの仕上げをしてくれる。
すらりとした細い指、綺麗に整えた淡いピンクの爪。
伏せた目が頬に長い睫毛の影を作る。
思わず伸びた手で睫毛に触れると瞬きを繰り返した後見開いた目が俺を見つめた。
「ん?」
「いや、今日も綺麗だなと思って」
ふはっと遥さんが噴き出すように笑う。
「そういうダーリンも今日もかっこいいよ」
「ネクタイのおかげですかね」
結んでくれたネクタイを持ち上げながら言うと遥さんはじっくりと見てからにこりと笑った。
「やっぱりよく似合ってる」
頬を撫で軽いキスをすると耳を赤く染めた遥さんが照れたような笑みを浮かべた。
一緒に暮らしだしてから遥さんは時折何の前触れもなく俺にプレゼントを買ってくるようになった。
もちろんそんなに高い物ではない。
薫さんと出掛けた時なんかに、遊び心のある下着だったり、ハンカチだったり、今日のネクタイもそうだ。
お前に似合いそうだから、と照れくさそうに渡されるプレゼントはどれも俺好みで、
離れていても俺のことを思い出してくれているようでとても嬉しい。
「そろそろ出るか」
「はい」
コートと鞄を持ちウォークインクローゼットを出る遥さんの腕を捕まえると、
遥さんが俺を仰ぎ見ながら微笑み目を閉じた。
キスがしたい。
そう思った俺を見事に見透かしている遥さんに俺はいつまでたっても叶わない。
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