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俺はこれまでで最高をあげたいんです。

せきを切ったように溢れだした涙はしばらく止まらず、俺に携帯を向けながらニコニコする那奈ちゃんを叱りながら侑司がティッシュを抜き抜き渡してくれた。 どうぞ、と出された温かいコーヒーを鼻を啜りながら一口飲む。 漸く短い息を小さく吐き出した。 「遥さん、一つお願いがあります」 お父さんの言葉にコーヒーカップから目を上げた。 「侑司から聞いてます、ご両親とのこと」 はい、と返事しか出来なかった。 「ご両親との和解を考えて欲しい。すぐじゃなくていい、そうだな、僕達が生きている間に」 な?とお父さんがまたお母さんに笑いかける。 「ご両親が何て言おうと、遥さんに非はない。だから堂々と間違っているのは両親の方だ!と訴え続けてほしい。 ご両親だって人間だ、間違うこともある。 でももしかしたら謝る機会を奪ってしまっているんじゃないかと僕達は思うんだ」 お父さんの言葉に頷くと、うん、とお父さんも頷く。 「なかなか頑固そうなお父さんだ。簡単にはいかないかもしれない。 だけど、いつかちゃんと解ってほしいじゃない。 あなたの息子はあなたが誤解しているような出来損ないじゃない、誇れる息子だと」 咄嗟に下を向いた。 止まったはずの涙がまた溢れ、ベージュのチノパンに染みを幾つも作る。 「あーぁ、またお父が遥さん泣かしたぁ」 「お、お父は泣かすつもりじゃなくて!」 「でも遥さん泣いちゃったじゃん」 やいやいと言い合うお父さんと那奈ちゃん。 漸くテーブルに戻した箱ティッシュを慌ててまた手に取り何枚も引き出し俺の頬を拭く侑司。 そうか、諦めていたのは俺もだったのか。 違うと、そうじゃないと、話を聞いてくれと訴えるのをいつから諦めてしまったのか。 もしかしたら最初から諦めていたのかもしれない。 自慢の息子は兄ちゃんだけ、俺はどうせ期待も何もされてない。 ずっとそう思って諦めてきたのかもしれない。 「わかりました。両親と改めて話しをしてみます」 まだやいやいと言い合っていた二人が俺の顔を見て、ほっとしたように笑った。 その笑顔を見て、俺も思わず笑った。 那奈ちゃんとお母さんがきゃー!!と声を上げる。 「遥さん、笑うと更に美人さんねぇ!」 「でしょ!?でしょー!?お兄には勿体無いよね!やっぱり遥さんは私と結婚した方が良くない!?」 「……お前たち、みっともないからやめなさい」 お父さんの静かな一言でしゅんと肩を落とした二人を見て、また笑った。

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