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俺はこれまでで最高をあげたいんです。

またいつでも一緒に帰ってきなさい。 そう言われお礼を言い瀧本家を後にした。 部屋に戻り、玄関に入った途端侑司に抱き締められた。 「遥さん、ありがとうございます」 「うん…」 一旦緩んでしまっている涙腺はもう閉まらない。 漸く全身を預けられる侑司に抱き締められ慣れ親しんだ匂いと体温にまたぐずぐずと鼻を鳴らした。 だけど泣いている場合じゃない。 もう一つのプレゼント、これを渡さない限り侑司の誕生日は終えられない。 離れがたい腕から抜け出し寝室に行く。 予め購入して隠して置いた小さな箱。 それを持って侑司の待つリビングに向かう。 「誕生日おめでとう」 涙と一緒に鼻が流れる。 慌てて侑司がティッシュで拭いてくれる。 俺が鼻をかんでいる間に侑司が箱を開け息を飲んだ。 「遥さん……」 「給料三ヶ月分のヤツ探したけどなかった。あれ、それ婚約指輪だっけ」 「遥さんっ」 ティッシュを鼻に当てたまんま侑司の腕の中に閉じこめられる。 小さな箱の中で並ぶキラキラと輝く指輪。 重たかろうが、束縛になろうが、もう侑司を離す気はない。 俺の遥さんです、と言うなら俺のものにもなってもらう。 侑司の指輪を取り侑司の指に嵌める。 関節で一瞬止まった指輪はちゃんと薬指の根本に収まり変わらぬ輝きを放った。 「俺も…遥さんにつけていいですか」 「…ん」 まだぐずぐずと鳴る鼻を啜りながら左手を出すと侑司の手が受け取り、冷たい指輪を収めた。 ぎゅうっと強く抱き締められまた溢れそうな涙を堪えている俺の背中を侑司の大きな手が撫でた。 「ちょっと待っててください」 俺の頬を撫で侑司が立ち上がり寝室に消える。 薄っぺらい紙を持って侑司が戻ってくる。 「出せませんけど、ここで、二人で誓いませんか」 広げられた紙は婚姻届だった。 侑司の名前は既に記入されていて、証人の欄には兄ちゃんと華さんの名前があった。 「お前、これ…」 照れくさそうに前髪を掻き上げ侑司が笑う。 「遥さんの名前は薫さん達の前で、と思ってたんですけど、華さんがうちらを幾ら好きやけんてそこまで真似されたら気持ち悪いわ、って」 ふはっと笑いが漏れた。 いかにも華さんらしい。 証人の欄への記入も華さんは何度か間違ったらしく、市役所に婚姻届の用紙を何度か貰いに行き、最後は三枚纏めて貰いに行きました、と肩を落とした侑司に泣きながら笑った。 「名前、書いてもらえますか」 「……喜んで」 はい、とボールペンを渡され名前を書く。 埋められた婚姻届をしばらく二人で眺めた。 「いつか…出せるといいな」 「一回で記入できたことは華さんには黙っときましょうね」 またふはっと笑いが出た。 「誕生日おめでとう」 「これまでで最高の誕生日です。ありがとうございます!」 引き寄せられ、額を肩に乗せ、うんと頷くと目の中に残っていた水の玉がころりと落ちた。 今日で一生分泣いたかも。 そう呟いた俺を侑司がさらに強く抱き締めた。 今日が俺の一番幸せな日になりました。 侑司の声が身体に染み入るようでまた溢れそうになった目元を肩口に擦り付けた。 本当は用意したかったケーキもご馳走も誕生日の明日になるけど、と謝る俺を侑司はずっと抱き締めていた。 ケーキよりもご馳走よりも、もっと素敵なものをたくさん貰いました。 甘く蕩けるような侑司の声に漸く背中に腕を回した。 俺のものだ。 ずっと離さない。 離させない。 自慢するように光るまだ馴染まない指輪を見ながらそう思った。

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