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会長√END

……副会長達のリコール。 それに関しては反対ではない。むしろ俺も賛成派なのだが。 だからといって、すぐさまリコールが出来るわけではない。それに至るまでの準備が普通の学校以上に、この学園は大変なのだ。 ましてや六人全員が揃ってもキツイ時があるというのに、それを三人で回している今の状況ではリコールの手続きどころか、まともな仕事すらも手が回らない状況だ。 …つまり。 簡単に言うと。 今はすごく忙しいということだ。 「……ふあ…、ねむ…」 現在早朝の六時。正確に言うと六時十分前。 昨夜も生徒会の仕事のせいで寝るのが遅かったというのに…。こんなのが毎日続くとなると、流石に堪える。 欠伸を噛み締めながら、生徒会室の扉を開けてみる。 ……そうすれば、正面の席には会長がすでに眼鏡を掛けて座っていた。 「…かいちょ……?」 「……あ?愛咲か」 随分早いなと言いいながら、眼鏡の端を持って上目遣いでコチラを見てくる会長には色々と突っ込み所が多い。 「早いって…、会長の方が先に居るじゃん」 「ああ、…まあな」 掛けていた眼鏡を外して机の上に置いた会長は、フゥーと深い溜息を吐きながら眉間を押さえている。 ……何だか男の色気が漂っているような、ないような…。 学園の生徒達が見たら、さぞかし涎物だろう。 「……あ、のさ」 「あ?」 「ちゃんと寝てるの?」 「………」 この場合の無言は否定と捉えていいのだろう。 「目の下の隈もすごいし、顔色悪いよ?」 「…大したことはない」 「で、でも…」 「うっせえな……大丈夫だっつーの」 「…………」 大丈夫ではなさそうだから、この俺が直々に気遣いをしてやっているというのに何だこの俺様な態度は…。と、一瞬思ったけれど、苛立ちよりも今は心配の方が大きかった。 「(…何ていうか……今にも倒れそうだ)」 こういう場合はどう対応してあげればいいのだろうか。 いつもお世話になっている文献を頼ろうにも、俺の読んでいる文献の『俺様会長』というのは、目の前の弱りきった会長とは違って、一切仕事をしない只のクズ野郎という場合が多い。 無理はするな、とか。………言いたいけれど、言える状況じゃないよな。 そんなことを言っても会長は聞かないだろうし、また無駄な口喧嘩が始まるだけだ。 「かいちょ…?」 「何だ?」 「その、…あれだ。肩でも、揉んであげようか?」 考えた末に口に出した言葉は、自分でも思った以上に変なことを口走ってしまったと思う。現に、会長は目を見開いて驚いている。 「…お前が?……俺に?」 何という不審そうな目…。 そんな目で見られて訊ねられたら、流石の俺でもショックを受けるぞ。だが俺の日頃の行いが悪いせいでもあるので、何とも言えない。 だが、たかが肩叩きくらいで、その他のどんな嫌がらせ何が出来るというのだ。それにここまで弱りきった人を前にそんなことをするわけないだろうが。 いくら何でも俺への扱いが酷過ぎると思うので、やはり俺の善意を疑った会長が全部悪いということにしておこう。 「……嫌なら、別にいいもん」 プイッと視線を逸らす。 あー、やめたやめた。心配なんて柄でもないことをするからこんな風になってしまうんだ。 ふんっ。そんなに倒れたいのならば、無理を重ねる前に早めに倒れてしまえ。だが、その時は俺は看病なんてしてやらないんだからな。どうぞ勝手に可愛いチワワ達にでも優しく看病してもらえばいい。 眠気覚ましのコーヒーも絶対に淹れてやるものか。 「………おい、」 「………」 「おい、愛咲」 「……なに?うるさいんだけど?」 会長に視線も合わせず、だが、ほんのり語尾を伸ばすということを忘れずに冷たく言い放てば、会長の方からはチッと舌打ちが聞こえてきた。 そんなことをされても怖くも痒くもねえからな。 「…仕方ねえな」 「………」 「お前がどうしてもって言うなら…、」 「…………」 「愛咲になら、…特別に揉ませてやるよ」 「興味ない」 「……な、っ!?」 今度は語尾を伸ばさずにピシャッと言い切る。照れているのか、何なのか知らないけれども、会長がモジモジと言葉を詰まらせている様は、ハッキリ言って気色悪い。そんな需要一切ねえから。 すると、ガタッと激しい音を立てて会長が席から立ち上がった。 「てめぇ!ふざけんな!」 「……ふざけてないしー」 「この俺様の肩を揉めるんだぞ。喜んで飛び付けよ」 「じいしきかじょー」 「………っ、」 やり場のない怒りに会長は拳を握っていた。 ……少しからかい過ぎただろうか。このまま怒りと疲れで倒れられても敵わない。仕方ないから、ここは俺が折れてやるか…。 「冗談だってー」 「…………」 「俺が会長を癒してあげるよ」 ほら、座って。と促せば、案外すんなりと言うことを聞いてくれた会長はドスンと勢い良く椅子に座った。どうやら会長もこれ以上言い争いするのは不毛だと思ったのだろう。確かに休む暇は作っても、喧嘩をしている暇はないからな。 「では、ちょっくら失礼しまーす」 そんなことを考えながら、会長の肩に手を置いた。 「しゃちょーさん。大分、お疲れのようですねぇ」 「…バーカ。俺はまだ、ただの会長様だ」 そんなことは、わざわざ言わなくても知ってるっつーの。話の流れだろ、流れ。お茶目なジョークだろうが。お前はドラマも、漫画も見ないのか。 …そこで、ふと考えて結論に至った。 こいつは、見ていないだろうな、と。いや、正確に言えば、見る暇などないのだろう。 時期、大会社の社長となる男だ。しかも今はクソ忙しい生徒会の会長。新聞を見ることはあっても、ドラマや漫画などの娯楽物を見る時間などないはずだ。 「(いつも馬鹿にしてからかってたけど、こいつって、すげえ奴なんだよな)」 文句を言ったり、たまにサボってたりしていたけど、急な用事がない限り、此処に顔を出さない日はない。俺なんかよりも、ずっと、ずっと忙しいはずなのに……弱音など聞いたこともないし、それを言おうともしない。 「……どう?きもちい?」 溜まっている凝りを解すように、硬い肩を揉み解していけば、「……あ゛ー」と、何とも判断しようがない、反応が返ってきて。俺はおもわず、クスッと笑う。 「少し、寝ててもいいからね」 「……馬鹿言うな。そんな、暇ねえよ」 そう言いながらも、会長の頭は今にもデスクに付きそうなくらいに落ちきっている。声からも察するに、物凄く眠たいのだろう。無理をせずに、寝ればいいのに。 「十分くらいなら、いいでしょ?」 「……お前が、ちゃんと起こせよ」 「はいはい。畏まりましたよーっと」 俺の言葉に渋々といった感じだったが、会長は目を閉じて、デスクに突っ伏していた。 そんな状態になっても、俺は揉んでいる手を止めない。あまり力を入れないように、首筋から肩に、そして肩甲骨に掛けてリンパを刺激してあげる。そうこうしていると、一分も経たずに、会長の静かな寝息が聞こえてきた。 「…ばーか。ゆっくり休めよ」 この俺が奉仕してやっているんだ。精々、思う存分癒されるがいい。 そして。 「愛咲!…てめえっ!」 ハッと顔を上げて、自力で起きた会長はというと。 時計で今の時刻を確認すると、案の定、すぐさま俺の方を向いて怒鳴りだした。 「ん?なぁに?」 「何じゃねえよ!起こせっつっただろうが!」 「……何で?まだ、大丈夫でしょ?」 「十分で起こす約束しただろ!もう一時間以上経つじゃねぇか!」 「十分くらいならいいでしょ、とは言ったけど、別に俺は十分経ったら起こすなんて言ってないもーん」 ふふふ、と。チャラ男っぽく口元に手を当てながらニマニマ笑えば、会長は本日二度目の舌打ちを繰り出した。 「…ったく」 「でも、どぉ?…少しは疲れは癒されたでしょ?」 「……ふんっ」 はいはい。無言は肯定っと。 「俺に出来る分の仕事はしといたからさ。もう少し寝ててもいいよー」 とは言っても、俺に出来ることは高が知れていたけれど。流石に会長の全部の仕事まで、俺には理解が出来ていない。というよりも、会長が自分の仕事を他の人にさせるのを嫌がるため、仕事内容すらもあまり見たことがないのだ。 「……チッ、もう寝ねえよ」 「そう?まあ、いいけどさー」 「それより……。おら、こっちに来い」 「なぁに?」 自分の席に座って書類の作成をしていた時だった。 今度は会長から呼び出された。いつもならば、「用があるなら、会長が来ればいいじゃーん」と、からかっていたのだが。今日はもう無駄口を叩くのは止めておこうと思った優しい俺は、呼ばれるまま素直に会長の席に近付いた。 「何の用?書類確認?」 「違う」 そして会長は席から立ち上がり、俺にその席に座るようにと命令してきた。 ………意味が分からん。 「……なんで?やだよ」 「いいから座れ」 「やだってば」 何故わざわざ俺に座らせるのかが分からない。もしかしたら椅子に変な仕掛けでもしてあるのか?俺が座った瞬間、椅子が壊れるとか? 「この俺様がお前の肩を揉んでやると言ってるんだ」 …なるほど。 自分だけ一方的にされたことが嫌だったのか。 「だったら余計にいやだ」 「…っ、てめぇ……!」 「俺はいいよ。かいちょーほど疲れてないし」 「……、いいから、座りやがれ…!」 「…う、わっ!?」 グイッと強い力で体を引っ張られ、そのままの勢いで椅子に座らされた。 急いで立ち上がろうとしたのだが、それよりも先に会長が俺の肩を押さえてきたため、立つことが出来なくなってしまった。 「お、俺には、そんなことしなくていいって…!」 「煩え、バーカ」 こんなこと有り難迷惑でしかない。…いや、そんなことを言うと俺の行動に対して、会長もそう思ったかもしれないけれど。でも、だけど。俺は絶対に揉まれたくない……! 「…っ、わ、ッ、ふは、ちょっ…!」 「………お前…?」 「ば、か!ッ、ふ、ふふ、くすぐったい…ッ」 その理由はというと。 …もうお察しの通り、俺は肩を揉まれると、めちゃくちゃくすぐったいのだ。 …………つーか、俺に気安く触るな! 「ひゃ、っ、ッ、ふ、ふへ、やめ…て」 「………」 無言で揉むんじゃねー!一人でワーワー騒いでいる俺が恥かしいじゃないか。馬鹿みたいじゃないか。 「ちょっ、ちょっとッ!ほんとにしなくて、いいってば!」 「うるせえ」 「ん、っ…会長が、…ふ、ぅ、ッ…触るから、じゃん」 肩を凝るというのが、俺にはよく分からない。確かにダルイ時とかあるけれど、そんなもの一日寝れば大抵忘れる程度だ。だから凝っていない所を揉まれても気持ちがいいとか感じずに、たたただくすぐったいだけ。 「や、やめてよぉ」 「煩えって」 「だから、それは…会長が…、」 「いいから、黙って触らせろ」 「………ッ!?」 …な、何だよ。それ。 ……それだとまるで肩揉みなんてただの言い訳で、下心あって俺に触っているような言い方じゃないか。そんなの、絶対におかしい。 「………ん、」 ……やっぱり、これは絶対に変だ。 ツゥー…と首筋を指の腹でなぞられて、おもわず変な声が出てしまった。 やばい。やばいぞ、これは。 過ちを犯す前に離れないと。此処から逃げないと。 「離、せ」 俺の肩や首筋を好き勝手に触りまくっている会長の手を払いのけようと、手を動かせば。 「……っ、」 振り払う前に、ギュッと強く掴まれた。 「あ……、」 驚きのあまり、心臓がドキッとした。 乙女心が高鳴ったようなドキッではなくだ。会長の行動に驚いて心臓が煩い程高鳴り出した。 後ろを振り返って会長を見上げれば。 会長は会長で、身を乗り出して俺の顔を見下ろしてきていた。 「……ん、ぅ」 あ、これは最高にヤバイぞ、と。思うよりも先に。 俺は会長に食われるように、口を塞がれてしまった。 「………ッ、」 優しさも手加減も一切感じない荒っぽいキス。甘さなぞもっての他だ。 強引に舌を割り込ませてくるは、舌を力強く吸ってくるはで、苦しいことこの上ない。 「、っ、ふ…、く、は、ッふ」 「…は、ッ」 何で俺がこんな目に遭わなくてはいけないんだ。 …というか、こいつは何で俺なんかにキスをしているんだ。訳が分からん。俺への嫌がらせの延長戦か?だけどそれではダメージを負うのは俺だけではなくて、こいつも同じでは無いだろうか。 「ン、く、…ふ、ッ、ん」 大体、キスっていうのは好きな奴とするもんだろ。嫌がらせや、欲の発散でホイホイするものじゃないはずだ。 「ッ、は、ふ…、ン、ァ」 ……ああ。 そう思うと余計に腹が立ってきた。 折角こいつのこと、見直していたのに。正義感が強くて、格好良い奴だと思っていたのに。 物凄く裏切られた気持ちだ。 「っ、ん、…は、ッ、や、…やめろッ」 胸元をおもいっきりドンッと殴ってやれば、会長はその衝撃で後ろに一歩下がった。 それに伴って、塞がれていた唇も自由になった。 「、ッ、……嫌がらせや、ストレス発散で、こんなことすんなよな、こんちくしょー」 チャラ男の面を被るのを忘れて素で喋っていることを思い出して、こんちくしょーと慌てて付け足したのだが、…逆におかしなことになってしまって、若干パニックになる。だが、ここで引くわけにはいけないので、ギッと睨み付けてやる。 ……しかし、相手は立っていて、対する俺は座っているため、あまり効果はないかもしれない。 「こういうことは、好きな人とするもんでしょ」 だからこれはおかしいよ、と貞操観念の無い会長へ説教をする。 これこそ遊び人のチャラ男らしからぬ台詞だけれど、誰彼構わずキスするくらいなら俺は、「しっかり者のチャラ男」に喜んでジョブチェンジしようと思う。 「……それなら、何の問題もねえだろうが」 「、…は、っ?」 「好きなやつとならいいんだろ?」 「………まあ、そうなる、のかな?」 「ほら、何の問題もねえ」 「ちょ、ッ、……ん、むッ!?」 ……意味わかんねえ!! 問題大有りだっつーの!!! 「ひ、ッ、!?ん、ん、ンッ」 再び、分厚くて生温い舌が入り込んできたと思えば……。 それは俺の口内を、ゆっくり…ヌルリと一回しした後にすぐに抜かれた。 ………だが。 「っ、!!、ん、いッ、いた…っ」 安心したのも束の間。 ヤツは、俺の口の端をガリッと噛み付いてきやがった。 「ん、っ、は……は、離せ、っ」 比較的柔らかい部分だ。そんな所を力任せに噛まれれば、相当な痛みを感じるし、血だって出るに決まっている。だが俺のことなぞお構いなしに、会長はその傷口を舌で抉ってくる。 「ひ、っん、ッ、ふ、ぅ」 ただ単に傷口を嬲りたいだけなのか。それとも、やり過ぎたと思って労わってくれているのか。……おそらく前者だと思うが、どちらにせよ迷惑なことこの上ない。はっきり言って、めちゃくちゃ痛い。 何だよ、コイツ。俺の首元に噛み付くは、口端にも噛み付くは、本当に危ないヤツだな…っ。 「ッ、ふ、っ、……ん、っ、やめ、ろ」 さっきの口振りからして、……ま、まるで、…お、俺を、好き?みたいな言い方したくせにさ。言っていることと、やっていることが、全然噛み合っていない。 というか、さっきのは…本当にそういう意味だったのだろうか。 ………会長が…俺のことを。 …………好き? 「……、っ、ぁ、…かいちょーは、」 「…あ?」 「俺のこと、好き…なの?」 非常に情けないが、慣れないキスと、与えられた痛みで、呼吸を乱したままでそう訊ねると。俺をいたぶっていた会長の動きがピタリと止まった。 「はっ、何を言っているんだお前は」 「……え?」 「好きじゃねえと、付き合ってねえだろうが」 「は?…えっ?」 何を言っているんだというような不審そうな目で見下ろされたが、それは本来俺がすべきことだ。 付き合うって何? 誰と誰が…っ? 「えーっとぉ……、俺達の関係って、ただの生徒会の役員同士じゃなくて……、つまりぃ?」 「恋人同士だろ?」 「!?」 い つ か ら !? 「っ、ちょ、…待って!待ってって!」 とんでもない爆弾発言をかましやがったくせに、何でもないような、それが極当たり前みたいな雰囲気で、尚もキスをしようと顔を近付けてくる会長の顔面を俺は押さえつけた。「邪魔くせえな」なんて言いながら俺の手にも噛み付こうとしてくるものだから、俺は本気で抵抗する。 「落ち着け!落ち着けって!!」 ……多分。……悲しいことに。 この場で、慌てふためいているのは俺だけだろう。だが落ち着くべきなのは俺だけではなく、会長も同じだ。 自分のパニックも含めて、会長の逮捕ギリギリの行為も、一度止めて話し合いをしようじゃないか。 「は、話し合いをしましょう!」 「………あ?」 「…えっと、お訊ねしますけどぉ」 「何だよ?」 「そのぉ、俺達ってぇ…いつから、付き合ってんの…?」 ハッキリと言おう。俺はそんな事実は知らない。というか、どこからそんな話が出たんだ。何かの冗談なのか? ……だけど、会長の顔はいつにもなく真剣そのものだ。 「あ゛?愛咲から告白してきたくせに、忘れやがったのか!?」 「え!?俺から!?」 何それ、怖い!!!全然身に覚えがないんだけど!!どういうことなんだ! そんな俺の動揺を他所に、会長はというと「俺は、あの日のことは一日たりとも忘れてねえというのに、てめえは!」とか、なんやかんや言って怒っている様子。 その様は、付き合い出しての記念日を忘れていた彼氏に怒る彼女のようだ……。 以前言っていた通り、会長は本当に“一途な男”なのだろう。 というよりは、束縛が強過ぎるのか……?どちらにせよ、危険なヤツだということには変わり無い。 「俺の手を握って、好きと言っただろうが!」 「………手を、握って……?」 そのフレーズを聞いて、ふと“あの時”の事を思い出した。 それは。 『はっ。お前に魅力なんざねぇだろ』やら、ゲテモノやら言われて腹が立ち。 『俺がその気になれば会長だって俺にメロメロになると思うのになー』と言った時のことだ。 俺よりも大きくて太い無骨な指。 そして苦労しているせいか出来ていた、ペンだこ。 ……恋人同士のように指を絡めて。 「かいちょー、……好き、だよ?」と俺は確かに言った。 …………だが、それは演技だ!! 「………うわー…」 え?じゃあ、俺はあの日から(会長の頭の中では)付き合っていたのか?恋人同士だったのか?だからたまに気持ち悪いくらい俺に構ってきた日もあったのか…。 「(なんというか、アレ、だよな)」 報復されそうなので、絶対に口には出さないけれど。 「(…会長って、大概痛いヤツだな)」 一途というよりも、もっと重たい“何か”だよな、コレって。 会長は自分の気持ちを上手く伝えれずに、いつか好きな子をストーカーとか監禁とかして、警察に捕まりそうだ。 「(ん?いや、今の状況からすると、それは…俺か?)」 そ、それだけは、勘弁してもらいたい…っ。 これは何とかして穏便に事を終わらせるように、話をはぐらかさければッ。 「で、でもぉー」 「……?」 「俺はかいちょーから、気持ちを伝えてもらってないよ?それなのに付き合っているっていうのはさ、おかしくなーい?」 小首を傾げて、そう訊ねてみれば。会長は、まるで火を噴いたように顔を真っ赤に染めて、一歩だけ後ろに下がった。 「…っ、お前は俺に『愛咲の作った味噌汁を毎日飲みたい』とでも言わせる気かよ!?」 「へっ?…え、いや、そこまでは求めてないけど」 というかそれは告白というよりも、プロポーズじゃねえか。 …本当にコイツの思考回路はどうなってやがるんだ…? 「かいちょーってさ。俺と同等なくらいに『プレイボーイだー』なんて言われてたけどさ。…もしかして、それってデマ?セフレの存在すらもなかったの?」 「ッ、煩えな!」 「あ、否定はしないんだ」 そうか。会長は口や態度は悪くても、根は真面目なヤツなんだよな。 「と、とにかくだな!お前は一生俺の傍に居ることが決まってんだよ!」 「……え?そうなの?」 「当たり前だろ。此処を卒業しても離してやらねえぞ。一緒の大学に行って、同じ講義を受けて、卒業して、…行く行くは、社長である俺の秘書をしてもらうからな!勿論、帰る家は一緒だ。後々入るであろう墓も一緒だ」 …何それ。四六時中一緒って事か。 「というか、俺は大学行く気ないよ?」 「専業主夫になるのか!?…チッ、それも悪くねえな……」 「いや、ならないけどね」 そして会長はそのまま、俺を大学に行かせてずっと一緒に居るべきなのか、それとも専業主夫をしてもらって家庭を守って貰うべきなのかを、一人で悩んでいた。 …………俺はそんな会長の姿を見て。 「ふはっ…!」 思わず吹き出してしまった。 「な、何だよ?」 「……いやー?別に?」 何だよ、コイツ。 喋ってみると、意外と面白いヤツじゃん。 可愛いヤツじゃん。 「ふふふっ」 「チッ、人の顔を見て笑ってんじゃねえよ」 俺が笑っている理由など、会長が分かる訳もなく。拗ねてしまったのか、プイッと俺から視線を逸らした。 「(円滑に事が進むように猫を被っていたのは、俺だけではなかったのか)」 口が悪いけれど、意外と仲間想い。 ぶっきら棒だけど、意外とお人好し。 素っ気無いようで、意外と面倒見が良い。 ……そして、重たいくらいの一途な男なんだ。 「かいちょー」 「…あ?なんだよ?」 「俺はね、仕事が出来て、要領が良い人が好きなんだ」 ニッコリと笑って会長にそう言えば。 会長は、俺の言葉を小さな声で繰り返した。 「仕事が出来て、…要領が良い……」 「うん。だからね」 「………愛咲…、」 「俺らの年代がポンコツだったなんて言われないくらいに…、いいや。最高の年だったって言ってもらえるくらいに、生徒会のお仕事を最後までやり切ろうね」 会長の俺への気持ちは、十分に分かった。 分かったけれど…。今ここで「はい、分かりました。付き合いましょう」とはならない。このクソ忙しい時期に、たった三人でしか仕事を回せていないのだ。愛だ恋だの、現を抜かしている暇などない。 ……それに何より。俺は……俺達は、お互いの事を知らなさ過ぎる。 「とにかく!今は仕事を頑張ろうか!」 「…ああ」 任期満了するまで時間はたっぷりとあるんだ。 …それまでに、互いのことを知ればいい。 それまでに、結論を出せば……いいよな? ****** 「おい、こら」 「………ん…」 「元生徒会長様が卒業式の真っ最中に抜け出して、こんな所で居眠りしていいと思ってるのか?」 「…ふん。あいつの話が長過ぎるんだよ」 裏庭に備え付けてある、ベンチの上で寝転んでいる神馬を見つけた。 そして俺はその台詞に、「まあ、確かに…」と多少ながらも納得する。式に参加をしている卒業生も在校生も、半数以上は船を漕いでいた。 現生徒会長は、真面目過ぎる人間なのだ。 「でも、まあ。ランキング上位から強制的に選ばれるよりも全然マシだろ?お前が選んだヤツなんだ。最後くらい、聞いてやれよ」 「…それなら、今から一緒に戻るか?」 「………そ、それは……もう少し休んでからでも、いいかな…」 「だろ?」 俺達は顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。 抱きたい・抱かれたいランキング自体は廃止していないが、それらの結果から次期生徒会メンバーを決めることを、俺達は止めた。というのは、それは勿論「副会長」と「書記」のせいだ。…いや、この場合は“どちらの意味でも”、役職名の頭に『元』を付ける必要があるな。 顔が良いヤツが生徒会にならないという事実に、勿論反論は多数あったものの。俺達の重みのある説得が効いたのか、生徒達はこの結論に納得をしてくれた。 「充」 「んー?」 「式が終わったら、買い物行こうぜ」 「いいけど、何を買うんだ?」 「大学で着ていくスーツ」 「…ゲッ。俺場違いじゃねえか。どうせ、クソ高い店だろ?」 「充も買えばいい」 「…んな、金ねえよ」 「バーカ。お揃いのを買ってやるって言ってるんだよ」 「ふん。いらないっつーの」 俺はお前にいくら借金をすればいいんだよ。 「遠慮をする必要はないだろ」 「気持ちだけ受け取っておくよ。俺は、持っている物を着て行くから」 「……ふーん」 あ、拗ねた。 相変わらず分かりやすいヤツだな。 「猫を被っていた時のお前は、もう少し可愛げがあったのにな…」 遠い目をして何を言っているんだ、こいつは。 「“あっちの俺”の方が良かった?」 「いいや。どっちも好きだけど」 「………っ、そ、そうかよ」 「だって、どっちも充だろ」 「…まあ、ね」 くだらないことで拗ねたり、怒ったりして可愛い反応を見せてくれるくせに、たまにこうしてサラリと恥かしげもなく、とんでもないことを言ってくるから、こちらとしては気が休まる暇がない。 ……少し前までは俺に『好き』と伝えるのもままならなかったはずなのにな。 「充」 「……今度は何だよ…?」 「顔、真っ赤だぞ」 「っ、うるせえよ!」 「ふはっ。やっぱり可愛いな、お前」 「………ッ、」 「前言撤回。やっぱり、素のお前が一番だ」 「…っ、ふん」 その言葉にすら嬉しいと思っている俺はもう末期だ。 「くだらねえランキングで決まったメンバーだったが、お前との接点を作ってくれたことだけは感謝するとしよう」 「……まあ、たしかに」 こいつの一言一言が嬉しくて、だけど照れくさくて仕方ない。 でも俺だけこいつの言葉に一喜一憂してるのは少し気にくわない。 『出会えてよかった。今はお前が好き過ぎて、どうしようもない』って。 そう言ったら、きっと今の俺と同じように、お前も顔を真っ赤にするんだろうな。 俺はその表情を見たくて、ゆっくりと口を開いたのだった。 「……あのさ、」 END

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