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五空間目②
「(とんでもない変態野郎だ、こいつ…)」
やっぱり聞かないという選択肢の方が正しかった。何がまんぐり返しだ…。俺は女じゃないっていうのに。
それに何が舐めしゃぶっただ。舐めるだけでも気持ち悪いし、汚いっていうのに、『しゃぶった』って何だよ。一体どんなことをしたら、あんなところをしゃぶったという単語になるんだ。
「(……きもい)」
顔が良いやつって、頭のネジが一本二本取れているんじゃなかろうか。
俺の弟にしても、神田さんにしても……。まあ、それが世の美形全員ってわけではないだろうけれど。
というかそんなにあれこれ酷いことをされていたら、腰も痛くなるだろうよ…。
「…………」
これ以上下手に逆らってまた変なことをされるのだけは避けたい。なので俺は逆らわないように、背後から抱き締められたまま大人しく身を縮み込ませた。
どうせあと少ししたら嫌でも解放してくれるだろう。流石に一時間も風呂に浸かるわけじゃないだろうし、このまま大人しく身を任せて、リラックスしよう。
「(ふぁー…風呂って温かくて気持ちいー…)」
「眠たいのか?」
「………」
どうやら俺が抵抗もしなくなり、静かになったことで、眠りに入ると神田さんは勘違いしたようだ。
……今目が覚めたんだ。それに背後にお前という獣が居るのに、そう易々と眠るわけないだろ、バーカ。
だが勘違いしているのならば、それはそれで好都合かもしれない。このままこの変態を相手にするのは疲れるし面倒臭いので、寝た振りをして時間を潰すのが吉だと思う。
そうすれが流石に解放してくれるだろう。早く暖かい布団で横になりたい…。
「…………」
「つーか、こいつ全身柔らけえな」
「………(馬鹿にしてるのか…っ)」
「抱き心地は良いし…」
「……(嬉しくねぇよ。早く布団に連れて行け)」
「…もう一回ヤるか」
「!?」
聞き間違いだと物凄く嬉しい。
だが、俺の尻の下にある神田さんの巨大砲台が、若干芯を持ち始めているので、どうやら聞き間違いでも冗談ではないらしい。
とんだ絶倫クソ野郎だ。
「寝てません!」
ザパァと激しい水の音を立てながら、俺は勢い良く立ち上がった。腰が死ぬほど痛いし、尻の穴もヒリヒリするけれど、ここはグッと我慢だ。そうしなければ、更に痛い目に、酷い目に遭ってしまうのだから。
「何だ起きてたのか」
「………、」
ニヤニヤと意地の悪そうな表情を浮かべている神田さん。
…何だ、その顔は。まさか俺は罠に嵌められたのか?それとも本当に俺が寝ているものだと勘違いしていたのか。…判別しにくい表情するなよ。
「狸寝入りとは関心しねえな」
「神田さんが勝手に勘違いしただけですよ」
「ったく、相変わらず可愛くねえ口振りだ」
「可愛くなくて結構です」
見た目も中身も可愛くないのは自分でもよく分かっている。顔は不細工な上に太っているし、性格だって捻くれ曲がっている。そんなもの嫌でも重々理解出来ているのだから、今更取り上げる必要などない。
俺の気を損ねさせて、その様子を見て楽しみたいだけだと思うが、そう思い通りにさせるものか。
「神田さんにどう思われようと、どうでもいいですから」
「…ふーん」
ニヤけた表情から一変、無表情へと変わった神田さん。流石に言い過ぎたのだろうか…。でも今更訂正などする気はない。
そんなことを考えていると、後ろから急に腰を抱き寄せられた。
……そうか。
俺、神田さんに尻を向けたままだった。
「……っ、ひッ」
「まあ、そういうお前のケツは死ぬ程可愛いけどな」
「……なっ、!?」
しかもその勢いのまま、俺の尻の間に顔を埋める神田さん。
「ばっ、馬鹿!!」
「ふはっ、柔らけえ」
「…ッぅ、し、死んでください!」
「ケツ振って誘ってきたのは有希の方だろ?」
「ち、違います!そんなの勘違いです!!」
「あ?それなら無意識で煽ってたのか?」
淫乱な身体になったものだな、って俺の尻の間で笑う神田さんに、本気で殺意が芽生えた。笑う度に息が吹きかかって、くすぐったくて気持ちが悪い。
…この人、殺していい?
ねえ、殺していい?
「は、離せっ!」
「まあ、そうだな。そろそろ上がるか」
腹も減ったし。と言った神田さんは、思ったよりも呆気なく俺の拘束を解いた。
どうせこの変態のことだから、何だかんだ人をからかって暫くはこの状態を楽しむのかと思っただけにすごく意外だ。
だが、解放して貰えたのは有り難い上に、早く服を着て落ち着きたいので、素直に言う通りに従っておこう。
「おら、手」
「………?」
差し出された大きな手。
俺の子供のようなプクプクした手とは違って、嫉ましいくらいに男らしくて格好良い無骨な手。
だが何故今その手を差し伸ばされたのか理解が出来ず、俺は首を傾げた。
「馬鹿、一人では歩けねえだろ」
「(………お前のせいでな)」
「だから、掴まれって言ってんだ」
なるほど、と理解したのと同時に。何故お前なんかに、とも思った。
どうやら思っていた以上に俺は神田さんのことを嫌悪しているらしい。
そりゃそうだ。
無理矢理何度も掘られた挙句、舐めしゃぶられたりもしているようなのだから。
「…いいです」
「……あ?」
「一人で歩けるから結構です」
神田さんから若干の距離を取りつつキッパリ言い放つ。
とはいっても、狭いバスタブの中で一歩後ずさっただけだから、大した効果はないけれど。
しかし、神田さんの眉間に皺が寄ったのが分かった。
「歩けねえから言ってるんだよ」
「…だとしても、神田さんの力は借りません」
我ながら可愛くない一言だと思う。
「……お前なあ…」
「………」
「チッ、分かったよ」
すると神田さんは少し苛立った様子で綺麗に畳まれたタオルを手に取り、乱暴に身体を拭いた後、下半身だけ身を纏い、そのまま部屋から出て行った。
「…………」
……一人になった俺は、チャプンと静かに音を立てて、湯船の中に身体を沈めた。
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