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七空間目⑪
「(……神田さんは寂しくないのかな?)」
俺はそんなことを考えながら、暗くなった室内で布団を頭から被った。
……俺だけがこんなにも名残惜しいと思っているのだろうか。この気持ちは俺だけの一方通行なのだろうか。あれほどまでに俺の身体を求めてくれていたのに、彼はもう俺のことなんてどうでもいいのだろうか。この密室空間から抜け出せば俺はもう用済みなのだろうか。……そう考えると、物凄く悲しくなる。
「(神田さんからしたら、俺はただの精処理機で暇つぶしか?)」
あれほどまでに優しくしてくれていたのもただの気まぐれだったのだろうか。……いや、そうではないと思いたい。神田さんの全てを知っているわけではないけれど、そんな人ではないはずだ。嘘や気まぐれでそういうことはする人ではないと思う。
余裕がないため考えの全てがマイナス思考になりつつある。このままウジウジしている内に明日になって『さよなら』は悲し過ぎる。そう思った俺は、勇気を出して神田さんに声を掛けてみることにした。
「神田さん、起きてますか?」
「……ああ」
「もう明日になったらお別れですね」
「…………」
「俺と離れると思うと寂しいでしょ?」
「…………」
「あはは。そこは無視せずになんか返してくださいよ」
暗闇で何も見えないことをいいことに、冗談っぽく言いながら無理して笑う。
……冗談でもなんでもいいからそこは返答が欲しかった。神田さんの反応が聞きたかった。
「神田さんは逆に俺なんかの相手をしなくて済むと思ってせいせいしているんでしょ……?」
「……そんなこと思うわけねえだろ」
冗談っぽく言うつもりだったのに、緊張と悲しみで不覚にも最後の方は声が震えてしまった。それが神田さんにも伝わったのか、今回の俺の言葉には無視をせずに返してくれた。それだけで俺はとんでもなく嬉しい。
「ねえ、神田さん」
「……なんだ?」
「一つお願い事があるんですけど、聞いてくれますか?」
「……なんだよ?」
「……手、繋いでもいいですか?」
「…………ああ」
断られなかったことに俺は安堵する。勇気を出してみてよかった。だってこのまま朝になってバイバイではいくらなんでも寂し過ぎる。俺は隣で寝ている神田さんに軽く近付き、触れるために暗闇の中、手を差し伸ばした。
「えへへ、ありがとうございます」
……俺とは違って大きくて男らしく骨ばった神田さんの手。その手に触れてギュッと握り締めた瞬間、なんともいえない感情が一気に湧き上がってきた。なんだろう。嬉しいはずなのに、なんだか泣きそうだ。
「……っ、わ?」
そんなことを考えていると、急に神田さんによって、繋いだ手を強く引っ張られた。
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