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七空間目⑬
「……ん、っふぁ」
エッチの時はあんなにも強引で乱暴だったくせに、なぜこうも神田さんからされるキスは優しくて甘いのだろうか。まるで脳みそから全身が蕩けてしまいそうになるほどのフワフワした感覚に、俺はゆっくりと開いていた目を閉じて悦に浸った。
「ん、ん……ん、っぅ」
触れ合っていない箇所の方が少ないくらいに神田さんを感じたい。そう思った俺は神田さんにもっと触れたくて、もっと感じたくて、俺は繋いでいた手を強く握り締めて、もう片方の腕を彼の背中に回して抱き着いた。
「か、んだ……さ、っんぅ」
「……はっ、」
「ん、ん……っ、はぁ、ん」
そうすれば神田さんもそれに応えるように俺の身体を強く抱き締め返してくれた。
しかも、先程よりも口内を丹念に舐め回される。キスの経験もなくてこれが初めてのことだし、キスについての知識も勿論ないためどういうのが普通なのか一般的なのか分からない。そんな俺だけど、今のキスは情熱的で少し荒々しいことは少なからず分かった。
すごく気持ち良くて幸せだ。
「(…………そうか、分かった)」
この感情はただの一時的なもので、気の迷いなのだと必死に思い込むようにしていた。だけどそれは違ったんだ。
「(……俺は、神田さんのことが好きなんだ)」
友愛とかではない。恋愛感情として神田さんのことが好きなんだ。
それを今更理解した俺は、とてつもなく悲しい気分になった。
……だって俺はもう明日には神田さんには会えないんだ。生きている次元が違い過ぎる。俺はただの引きこもりのデブ野郎で、神田さんは世界の誰もが認めて求めているイケメン俳優なのだ。会える機会なんてあるはずがない。
だから俺は、この気持を伝えられるわけもなく、ただただ神田さんに強く抱き着いた。
「ん……っ、ん、ん」
「…………有希」
「……ふ、は……神田さん」
「……もう寝ろ」
最後に口の端にチュッとキスをされて、乱暴に髪の毛を掻き混ぜられるように撫でられたかと思うとそう言われてしまった。
「……無理ですよ」
それは神田さんだって一緒のはずだ。こんなにも熱く硬く滾った物を俺に擦り付けてきているくせに良く言うよ。
ムラムラした状態で悲しみに暮れている状況で眠りに就くことなんでできるわけがない。
「無理でも寝ろ」
だけど神田さんに二度も言われてしまえば、これ以上何も言えない。
「……じゃあ、このままの体勢でもいいですか?」
「……ああ」
「ありがとうございます」
だけど少しくらい甘えてもいいはずだ。
そう思った俺は、神田さんの匂いと体温を感じながら、胸元に顔を埋めて強く抱き着いたのだった。
……目が覚めると。
もうそこには神田さんは居なかった。
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