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八空間目②

「……帝?」 背格好は二ヶ月前に見た時と同じだと思うけれど、ボサボサの髪型はお洒落な帝には似つかわしくない。きちんと確認するべく、恐る恐るとその人物の肩を軽く叩いてみれば、その人物は少しだけ動きを見せた。のそりと獣が起き上がるようにこちらを振り向いたのだ。 「…………お前……」 「み、帝……」 驚いたように目を見開いてこちらを見上げてくる人物は、紛れもなく俺の弟の帝だった。しかし無精ひげは生えたまま放置されている上に、目の下には濃い隈を付けていて、最後に見掛けた時よりもやつれているような気がする。……いったい、この二ヶ月間という短い期間に何があったのだろうか。 訊ねたいことがいっぱいあり過ぎて、なにを言えばいいのか分からない。とりあえず大丈夫なのかどうかすごく心配だったためそれを訊こうと思ったのだが…… 「……っ!」 それよりも先に帝に苦しいほど抱き締められて、俺はおもわず言葉を失った。 「み、帝?」 「…………本当に兄貴か?」 「う、うん」 「……幻じゃねえよな?」 「幻じゃないよ。俺はここに居るよ」 俺を抱き締めている帝の身体が少し震えているのが分かった。原因は分からないけれど、こんなに憔悴しきった帝を見るのは初めてのことなので俺は内心かなり驚いているし心配している。少しでも効果があればと思い、帝の背中をゆっくりと撫でてやれば、俺を抱き締める帝の腕の力が更に強くなった。 「……く、苦しいよ」 もしかしなくても、俺から触れられて怒ったのだろうか。でもだからといって、痛いほどまでに俺のことを抱き締めているのは帝の方なのだ。少しくらい俺から触れたって何も変わらないはずだ。だからこれくらいのことは許して欲しい。 「…………」 ……やっぱり帝の様子がおかしい。 いつもはもっと余裕があり、俺はもちろんのこと他人には絶対に弱みを見せるようなやつじゃなかった。口を開けば暴言を吐いて、気に食わなければすぐにでも暴行を働くような野蛮人だった。それなのにどうしてしまったんだろう。 「……大丈夫?」 「……うるせえ。勝手に俺の前から居なくなったくせに」 「そ、それは」 「俺のことを捨てやがったくせに」 「……捨てたなんて、そんな……」 捨てるなんてそんな考えは一切なかった。俺はただ現実から逃げ出したかったんだ。 冷ややかな両親の目から、俺のことを嫌って暴行を働くお前から……。愛してくれなんて欲張りなことは求めていない。ただ人としての、家族としての扱いを受けたかったんだ。できることなら、昔のようにお前と仲の良い兄弟に戻りたかったんだ。

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