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八空間目⑪
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「ハァ、疲れたー」
冷房を付けている中、俺が窓を開けて換気をし始めたのを切っ掛けに、本格的に家中の掃除をし始めた俺たち。生ごみを袋の中に詰め込んで、散らばった空き缶やペットボトルを纏めて掃除機を掛けて床や机を拭く。掃除が嫌いで苦手な俺たちにしてはとても頑張った方だとは思うけど、綺麗好きな母さんが居た時と比べるとまだまだ散らかっていて汚れているのだろう。だがとりあえずは、人がまともに暮らせるほどには片付けることができたのでそれだけでも満足だ。
そして俺は、座れるようになったソファーにドサッと飛び込むように寝転がる。ゆっくりと目を閉じて安らいでいると、掃除作業で汗を掻いてしまったためエアコンの冷たい風がとても気持ち良い。
「……ん?」
一段落が付いてそのまま休憩していると、汗を掻いて少し濡れている前髪を撫でられた。そんなことをするのは一緒に作業をしていた帝しか居ない。ゆっくりと瞼を開ければ勿論そこには帝が居て、俺のことを見下ろしてくる帝と目が合った。
「帝?」
「なにか飲むか?」
「あ、じゃあ冷たいお水飲みたい」
「分かった、持ってくる。待ってろ」
「……っ!?」
そして帝はそう言うと、なんでもないようにさり気なくチュッと俺の額に唇を落としてきた。突然のことにビックリし過ぎて、おもわず上半身を起こして怒鳴ってしまう。
「こ、こら!なにしてんだ!?」
「俺の前で油断してる兄貴が悪い」
「……こ、このキス魔め」
帝がこんなにもキス魔で甘いことをするやつだなんて、想像も付かなかった。今日だけで兄弟の知りたくなかった性癖や愛情表現を思う存分知ってしまった上に、押し付けられてしまったことにどう対応すればいいのか分からず、俺は再度ボスッと柔らかいソファーに全身を預けた。
「……気分転換にテレビでも見るか」
どんな番組でもいいから、今は帝以外の他人の声が聞きたい。寝転んだまま短くて太い腕を限界まで伸ばして、机の上に乗っているリモコンを手に取る。
「……!」
…………そしてテレビの電源を付けた俺は、その画面を見て固まることとなった。
『神田さん!それでは今後はご自身で新事務所を経営なさるとのことですね!』
『はい、そうですね。以前の事務所で一緒に働いていた同期や後輩を引き連れて共に一から事務所を築いていこうと思っています』
『数々の契約違反を行っていた前事務所について他に何か言いたいことなどありますか?』
『沢山の理不尽なことを強いられてきたのは確かに間違いないですが、お世話になったことには変わりありません』
……なぜなら、そこには緊急会見を受ける神田さんが居たのだ。
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