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九空間目②
「……分かったよ。帝が居る時はもうリビングのテレビで見ないよ」
確かに今までは何も言われなかったから、配慮もなく好き勝手に見ていた。大画面の高音質で見るのが良かったけれど、一緒に暮らしている帝が嫌だと言うのならば妥協しなければならない。それに言われてみれば好きでもない番組を二度も三度も見せられるのは堪ったものじゃないだろう。だからこれからは大人しく自分の部屋の小さいテレビで堪能することにしよう。
「違う」
「違うって何が?」
「兄貴は根本的なことが分かってない」
「……お、おいっ」
帝はそう言うと、ソファーに座っている俺の身体を押し倒して上に跨ってきた。帝は俺よりも身長が高くて筋肉質なため、それなりの体重があるのか上に乗られると身動きが取れそうにない。
「な、なにしてるんだよ。早く退けって」
「たとえ会うことのない芸能人相手だろうと、そこまで夢中になって見られたら嫌に決まってるだろ」
「…………」
会ってたんだよなぁとは口が滑っても言えない。しかも会うだけではなくて、二ヶ月間も一緒の部屋で過ごして、あんなことやこんなことまで色々としてきたのだ。だけどそんなこと言えるわけもなく、正直に言わずに隠し通すのは申し訳なさ過ぎて、俺は帝から視線を逸らした。
「こっちを見ろ」
「…………」
「兄貴。俺を見てくれ」
縋るようにそう言われて、俺はゆっくりと視線を帝の方へと戻す。
「……帝」
そうすれば、ギラギラと熱を帯びた雄の目をした弟と目が合った。俺を押し倒して見下ろす相手は間違いなく帝のはずなのに、その目を見て思わず神田さんのことを思い出してしまう。それほどまでに俺は神田さんのことが好きで恋しいということだ。
「キスしていいか?」
「駄目」
「触ってもいいか?」
「駄目」
「……チッ」
舌打ちされたとしても駄目なものは駄目だ。俺からしてみれば帝は恋愛対象ではなく最近少し仲が良くなった兄弟としか思えない。
「まあいい。その内絶対振り向かせる」
そして帝はのっそりと大きな身体を俺の上から退かしてくれた。
「飯でも食うか」
「……う、うん」
「そのまま座って待ってろ」
「あ、ありがとう」
上に跨ってきた際に、帝の下腹部が熱く硬く昂ぶっていたのが分かった。だけどどうやら両想いになるまで本気で手を出さないで居てくれるようだ。
「(……何で俺のような奴を好きになったんだろう)」
男同士で、しかも血の繋がった兄弟という茨の道を通らなくても、帝の容姿があれば相手なんて選り取り見取りなはずだ。それに自分で言うのも悲しいけれど、体型も容姿も俺は最底辺に近いと思う。
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