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十一空間目①

「……え!?ってことは、神田さんがあの握手会の当落を決めていたんですか!?」 「ああ、有希を含む数人だけはな。後は機械が勝手に抽選をしてくれた」 「そ、そうだったんですか」 俺は濡れた髪の毛を背後に居る神田さんに拭いてもらいながら、事の詳細を聞いて驚愕する。 つまりは俺の当落結果に関しては、全くの出来レースだったというわけだ。運のない俺が見事当選したものだから驚いていたけれど、それを聞いて少し納得する。 「握手会を開いたのだってお前に会うためだけに開いたものだしな」 「…………神田さんって、俺のこと好き過ぎるでしょ」 『俺のためだけ』だという響きに内心かなり喜んでしまった。だけどそれを悟られるのは恥ずかしくて、そんな可愛げのないことをボソリと呟けば、「まあな」と当たり前のことのように瞬時に返ってきて、俺は言葉にならない言葉を上げる。 …………なんて男だ。恥ずかしげもなくそんなことをサラリと言ってのけるのは、本当にずるい。俺の心臓を爆発させる気か? 「で、でも、なんでです?」 「あ?」 「俺に会うためってことは、その前から俺のことを好きで居てくれたってことでしょ?それならなんでそんな回りくどいやり方を使ったんですか?8月31日のあのアルバイトの最終日に連絡先でも教えてくれたらよかったじゃないですか」 あの日、俺には彼に連絡先を訊ねるのは勿論のこと、あなたが好きですと告白をする勇気もなかった。だけどそれはただ単に勇気がなかっただけではなくて、そんな資格すら俺にはないと思っていたからだ。超絶有名人の神田さんに、たった二ヶ月間同室者と過ごしただけのモブ野郎がでしゃばるような真似ができなかったのだ。……だけど、神田さんならばそれがサラリとできたはずだ。告白はまだしも、俺の連絡先を訊くことなんて簡単なことだったと思うけれどそれは違ったのだろうか。 抱いた疑問をそのままぶつければ、なぜか神田さんは珍しく少し言い淀むように言葉を発した。 「…………あー。それは、あれだ」 「……?」 「本当はお前のことを手放してやるつもりだったんだよ」 「……え?ど、どういう意味ですか?」 「嫌がるお前を無理やり犯して乱暴なことをしてしまった自覚はあったし、あのままだと有希に依存し過ぎて本気で抱き殺してしまいそうだったからな」 神田さんはそう言うと、拭いてくれていた俺の髪の毛を掻き混ぜるように頭を撫でてくれた。 どうやら神田さんは神田さんなりに思うこともあって行動をしていたようだ。神田さんの言葉には少し驚いたけれど、彼の本心が聞けて嬉しくもある。

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