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十一空間目⑤
「……あ、神田さん。この辺りで大丈夫です」
「もう遅いし、家の前まで送るぞ」
「い、いえ。住宅街なのでもし周りの人たちに此処に神田さんが居ることがバレちゃったら、大パニックになっちゃいますよ。それに此処から俺の家は近くなので大丈夫です」
冬は日が落ちるのも遅くて、電灯が少ない場所は真っ暗だ。だから神田さんは心配をしてくれているのだろうけど、俺は男だし、それに本当に此処から家まで歩いて数分程度なので本当に大丈夫だ。だけど神田さんの気遣いや優しさが嬉しくて自然と溢れる笑みを浮かべれば、神田さんは渋々といった様子だったが納得をしてくれた。
「……分かった。きちんと家に着いたら連絡しろよ」
「ふふふ」
「なんだよ?」
「いえ、神田さん優しいなぁと思って」
運転をする神田さんの横顔を見つめる。相変わらず見蕩れてしまいそうになるほど格好良い。その表情だけでは何を考えているのか分からないし、運転中のため視線は合うことはないのだが、会話の節々に彼の優しさが伝わってきてとても幸せだ。車内の暖房も効いているせいか、徐々に俺の体温は上がってきてしまっている。
「恋人の心配をするくらい普通のことだろ」
「…………こ、恋人……」
そうか、恋人か。俺は神田さんの恋人なのか。
お互いに想いは一致しているためそういう括りになるのは分かっていたのだが、改めて言葉で聞くと急に恥ずかしくなってしまう。
「ふっ、顔真っ赤だぞ」
「……か、神田さん」
神田さんとの関係を強く意識してしまい俯きながら一人で照れていると、停車できるところに車をとめた神田さんがこちらを向いてニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「相変わらずお前はすぐに赤くなるな」
「……ば、馬鹿にしないでください」
「馬鹿にはしてねえよ。可愛いと思っているだけだ」
「……っ、か、可愛いだなんて……」
からかっているだけなのか、それとも本気で言っているのか分からないが、そんなことを熱く見つめられながら言われると、余計に体温が上がってしまう。
「(……本当に掴めない人だ。でも……でも、だからこそ好きだ。本当は離れたくない)」
このまま時間も立場も忘れて、好きなだけ一緒に居られればどれほど幸せなのだろうか。
一緒に居れば居るほど欲深くなってしまう。もっと、もっと一緒に居たいと望んでしまう。多分このことを彼に告げれば、神田さんのことだから俺の望みを叶えてくれるだろう。だけど俺はそうすることはせずに、この甘い空間を名残惜しく感じながら別れの言葉を告げることにした。
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