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十一空間目⑦

「俺のために買ってきてくれたの!?俺が食べていいってこと!?」 「ああ」 「まーじかぁ!ありがとう、帝!」 体型の通り相も変わらず甘い物が大好きな俺は、帝の親切心に大袈裟なほどに喜んでしまった。ニコニコと笑いながらお礼を言えば、外灯だけが頼りの夜道だというのに、帝が軽く笑ったのが分かった。 「……な、なんだよ?なんで笑うんだよ?」 「ふっ。いや、可愛いなと思って」 「か、可愛い?どこがだよ、可愛くなんかないだろ」 「いいや、すごく可愛かった」 「…………っ、」 そう言った帝は、兄弟であるはずの俺さえも見蕩れてしまうほど格好良くて、甘い笑みを浮かべていた。 「(…………本当に俺のこと好きなんだ)」 ただの兄に向けるような笑みではない。愛おしさを込めた表情を俺に向けてくれる帝を見て、俺はどうしようもなく胸が痛んでしまった。 確かに帝には今まで散々な目に遭わされた。理不尽な暴力を受けるのは当たり前のこと、何度も無視をされる日もあれば、パシリのように扱われる日もあった。それが兄である俺を好きになったことに対しての誤魔化しや照れ隠しだったとしても、受けた傷はそう簡単にすぐに忘れることはできない。…………しかし、だからといって、俺には復讐をしてやりたいとか、痛い目に遭わせてやりたいという気持ちは一切ないのだ。 「(―――でも、今俺がしていることは似たようなものじゃないか……?)」 仲が悪くなることを、今の良好な関係が壊れてしまうことを怖れて、自分の気持ちや神田さんのことを素直に伝えずに帝に接することはあまりにも自分本位過ぎるだろう。帝に嘘を吐いてしまっていることと同じだ。一生隠し通すのならまた別の話だが、そうではない限り傷付けてしまっているのと同じだ。 ずっと後回しにしてきたけれど、俺のことを好きだと言ってくれる帝にこれ以上嘘は吐きたくない。 「…………あ、あのさ……、」 「どうした?」 そう思った俺は、家に帰ってタイミングを見計らって話そうとしていた内容を、今すぐ正直に話すことに決めた。 「……お、俺さ。帝の気持ちを受け取ることはできないんだ」 「…………」 そうすれば、帝は先程の優しく甘い表情から一変して、眉間に皺を寄せて鋭い顔つきになった。まるで別人のようだ。俺の突然の告白に帝は足を止めて、こちらをジッと見つめてくる。 「ずっと言おうと思ってたけど、また帝との距離が離れて関係が拗れるのが怖くて、自分の気持ちを正直に打ち明けることができなかったんだ、……ごめん」 「兄貴、」 「…………俺、好きな人が居るんだ」 逃げ出したくなる気持ちを必死に抑え込んで、俺は帝から目を逸らさずに自分の気持ちを打ち明けた。

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