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RING OF FIRE
「準備の仕方はこのスタッフに教えてもらって。準備だけでいいよ、慣らしたり広げたりしなくていい。あ、初めてだよね? うん、よかった」
面接のあとに大慌てで作られただろう契約書にサインをし、監督に説明を受ける間も志摩さんはずっと隣にいてくれた。安心させようとしてくれてるのがわかって、嬉しくなる。
きちんと聞かなきゃと思うのに、浮かれた気分は監督の説明を右から左に流していった。志摩さんが俺の体にずっと触れてるせいだ。ドキドキするから今はやめてほしい。
へろへろになりながらも言われた通り後ろの洗浄を終えて、渡されたバスローブを身に着けてシャワールームを出る。ベッドに座った志摩さんが、俺を見つけるなり手招きをした。
内緒話をするように設定をもう一度繰り返される。
「俺たちは付き合ってひと月の恋人同士で、君は初めてのえっち。細かなことは俺に任せて。君はめいっぱい気持ち良くなって可愛い顔を見せてくれればいいよ」
始まる前から色気を垂れ流す志摩さんに、俺は即効でメロメロになった。今まで見て来た画面の中に自分がいるなんて信じられなかった。
唇が触れる距離で説明をされれば、それだけで感じてしまい体温が上がっていくのがわかってもじもじと膝を擦り合わせてしまう。
「緊張してる?」
カメラが回っても、彼は少しも変わらなかった。ガチガチに緊張した俺を優しくほぐすように、触れ合うキスをして頭や背中を撫でてくれる。固まる俺の耳元で好きだと繰り返し、目をきゅうっと細めて笑いかける。
「俺も……男の子とえっちするの久しぶりだから緊張してる。 ほら、触ってみて?」
俺の手を取ってバスローブの中に突っ込んだ。手が触れた瞬間、そのドキドキに驚いた。志摩さんが緊張するなんて……決まった台詞を言っているだけだと思った。
「ふっ……んん、あっ、あんっんちゅ……んぁ!」
テクニシャンな舌で口の中をかき回される。その合間にちゅっちゅと啄むように愛おしげにキスをされる。 これはさすがに引かれそうで言っていないけれど、童貞なだけじゃなく、全部が初めてだった。
縁がなかっただけだ。でも、自分の初めてが全部が志摩さんになっていくのが嬉しい。
嬉しくて嬉しくて、緊張はあっという間に消え自然と体が蕩けていく。
志摩さんの手が俺のバスローブを脱がしていく。胸元を撫で、乳首を掠める。くぐもった声を上げる俺に、嬉しそうに彼がふふっと小さく笑う。肩をするりと落ちて、上半身が晒される。掠めるだけの手は、やわやわと肌の感触を楽しむようにほぐしていく。
大好きな志摩さんにされていると思うだけで、どうにでもしてくれとすべてを差し出せる。ぴちゃぴちゃと音を響かせながら舌を絡ませ口の中をあちこち懐柔される。じゅっと舌を吸い上げられた途端、触れられてもいない後ろが期待にじんじんと疼いた。
「……すき。ん、すき。あっ、はぁっ! ん、んちゅ」
「かわい……ん、俺も。好きだよ、っ」
恋人設定でよかった。口から勝手にこぼれる言葉も、否定されることなく同じように返される。今まで生きてきた中で一番幸せだった。
大きな手のひらが首を撫で、顎を掴んだ。快楽に揺蕩うように目を瞑る俺に、自分を見ろと言わんばかりに強く掴まれる。目を開くと、視線がぶつかる。
見つめ合ったまま好きだと囁かれ、いいかと問われる。いいに決まってる、ずっとこの日を夢に見ていた。ゆっくりと頷くと大きな手のひらが頭をするりと撫でた。
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