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JUGGLING

「大悟さん、大丈夫ですか?」 「桜井……? おま、気づいて……ありがとな」 「痴漢なんかに僕の体、勝手に触らせないでください。ということで次降りますよ」  お仕置きです、と耳にそっと囁く。  こんなに簡単に首筋まで真っ赤になって、イラッとしたようなムラッとしたような、なんとも複雑な気持ちになる。大悟さんはお仕置きという言葉に頭がパンクしたのか、何も言わずに呆けていた。  いつも降りる駅よりずっと前の駅で僕たちは改札を出た。  戸惑う大悟さんがきちんとついてきてるのを確認しつつ、足を進める。  この先に確か、男同士でも入れるラブホがあったはずだ。そのホテルは簡単に見つかって、渋る大悟さんを後ろから押して強引に部屋を決めた。安っぽいエレベーターに乗り込む。小さな箱はすぐに目的の階について、部屋のランプがぴかぴかと僕たちを呼んでいる。 「急にどうしたんだ……」  ここまで来てまだ渋るか。  行きますよ、と手を取ってドアを開け押し込むようにして部屋に入った。ドアを閉めると自動でがちゃんと鍵がかかる。そこでやっと大悟さんの体から力が抜けて、僕は掴んでいた腕を離した。 「痴漢、されてましたよね? いつもなんですか?」 「いつもじゃ……」 「はあ……その言い方初めてじゃないってことですよね。僕の体に勝手に触らせないでください。消毒とお仕置き。明日は土曜で休みだし、今日は覚悟してください。あなたが悪くないのはわかってるんですけど……僕、怒ってるんですよ」 「……すまん」 「お風呂、入りましょう。もちろん一緒にです。反論は受け付けません」  本当ならすぐにでも襲い掛かりたいのを我慢していることを褒めてほしいくらいだ。  スーツをハンガーにかけて、ワイシャツも脱いでソファにかけた。もぞもぞと恥ずかしがる恋人を置いて僕はお湯を溜めようと先にバスルームへ入った。  恋人の体を好き勝手に触られて怒らない奴がいたら見てみたい。大悟さんの背後にはサラリーマンと男子高校生が立っていた。女の人じゃないことが余計に腹が立つ。痴女でも腹は立つけど、俺と同じ男が大悟さんを俺が見るのと同じ目で見ることが許せない。 「そろそろ入ってきてください」  バスタブのお湯が半分を超えて、僕は下着を脱いで大悟さんに声をかけた。恥ずかしいのか、遅れて小さな返事が聞こえてきた。  少しの間をおいて、ガチャリとドアが開く。何度体を重ねてるっていうのに、未だに恥ずかしがるのはどういうことだろう。  そういえば……高校時代の合宿もあまり脱がない人だったな。ふと気づいた過去に、自分以外の存在が浮かび上がるのが嫌で頭を振って考えを捨てた。

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