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KNIFE THROWING

 大学進学と同時に東京に出てきて、それなりに大きな会社に就職出来た。昔から要領だけはよく、上司からも気に入られているだろう。出世はきっと近い。人生イージーモードとまではいかなくとも、それなりにスキップで進んでいると思う。  女の子に困ったこともない。女の子受けする甘い言葉とそれなりに整った容姿。モテて困るようなことはなかったけれど、彼女は途切れることなく最後に右手にお世話になったのはいつだったか、もう思い出せないくらいなのに。  目が覚めて、頭の中を消防車とパトカーが駆け抜ける。  がんがんと二日酔いは容赦なく頭を殴りつけ、目の前の現実は耳元で大きな警告音を鳴らす。やばい。全然覚えてない。いや、人として最低だけどめちゃくちゃ気持ち良かったのは覚えてる。  未だくうくうと眠り続ける本多を置いて、逃げ帰るという選択肢はなかったがどうすれば正解なのか、もはや正解があるのかどうかもわからない。  そっとベッドから降りてスマホを探す。カーテンの隙間から見た空は薄藍だった。時計を見ればまだ早朝だ。数時間前まで居酒屋にいたはずだ。  社運を賭けた、大きなプロジェクト成功を祝う打ち上げだった。金曜で次の日が休みだからと飲み過ぎたことはかろうじて思い出した。  瀬田は頭を抱えて大きくため息を吐いた、ホテルの絨毯の上には脱ぎ散らかしたスーツがあちこちに落ちていたからだ。救いだったのはどれもきちんと自らが脱いだのがわかることだった。破れてもいないし、ボタンもきちんとついている。  適当に拾い上げてソファにかける。今更だけどジャケットだけはハンガーにかけておいた。  持ち上げた自分のジャケットの重みでポケットにスマホを入れていたことを思い出した。取り出してみると、たくさんのメッセージが届いていた。それを古い物から順に読んでいく。手がかりはこれしかない、縋るような想いだったが、読めば読むほど自分で自分が信用ならなくなった。 「あぁー……」  十件近いメッセージを要約するとこうだ。 ・酔っぱらった本多をしきりに可愛いと言っていたが、もしかして狼になってないよな? ・無事に送り届けてるよな? ・おい、返事がないってことは月曜日覚えてろよ。  いくら瀬田が女の子をとっかえひっかえしてることを隠さないチャラ男だとはいえ、ひどいいい草だ。ただ、本多が皆に好かれているのは事実で、心配されるのもわかる。だが男同士だということが、そこに加味されていないことが不思議で仕方ない。  まさか、俺以外にも本多を抱いた奴がいるんだろうか。酔っぱらった本多が可愛かったことだけは、じわじわと思い出してきて、何とも苦い気持ちになる。  俺以外のやつも見たってことだよな?  って、おいおい。おかしいだろう。本多を誰がどう見ようと、俺には関係ないことだ。瀬田は腕を組む。自分は女の子の柔らかい体と甘い香りが好きだったはずだ。  嫉妬深かったり長いショッピングに付き合わされたり面倒なことも多いが、柔らかいおっぱいに勝るものはない。  それなのに、今は同僚の真面目くんが他の誰かともこうしてセックスをしたんじゃないかと気が気でない。なんでこんなことになったんだ。

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