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第14話 腹チラ見せは、とっても……
逆上がり、できますように。
「おーい、次、マットやるぞー」
男子と女子で違うカテゴリー能力テストを二年全員がぐるぐると体育館で行っていく。一つずつズレてやっていく感じ。室内用鉄棒なんてあったんだってちょっと驚いた。今まで一度も見たことがなかったくらい。たぶん鉄棒なんて使ったことないんじゃないかな。先生達と体育委員のメンバーが雑巾で拭いてたくらいだし。
今日のこの能力テストのために体育倉庫のほうがもぬけの殻になるくらい、体育用具がフル稼働してた。
「はい。次―、桂―」
なんだっけ。前転、後転、開脚前転、開脚後転、あとは……ぁ、倒立か。倒立、側転、えっと、さすがにバク転はしなくいいのか。
で、終わり。
「? あの……先生?」
「あ、あぁ、はい、次―加藤―!」
「?」
なんか、変だったかな。最初、ちょっと器械体操のクセでポーズしそうになったのが、おかしかったとか?
基本姿勢は厳守、だから。技に入る前、両手を高く上げて背筋を伸ばし、爪先はしっかり揃える。必ずそれをしてから技に入るせいもあって、何もせずにすっと入るのが妙に気持ち悪かった。
「はい。次、酒井―!」
その名前にぴょんと耳が反応した。
酒井のマットってあんま見たことないかも。学校の体育って基本マットとか飛び箱とかよりも球技、陸上、それとダンスとかだったから。
「……」
やっぱりカッコよかった。
身体がしっかりしてるから、手足長いし、顔カッコいいし。
あ。
つい、ドキッとしちゃった。そっか、そうだよね。スポーツクラブだと事故防止のためユニホームは必ずズボンの中にインしておかないといけないんだけど、これは体育だもんね。ズボンにインはしないし、しなければ倒立の時、お腹見えるよね。
公太の腹筋、見ちゃった。
「柚貴さ……」
「!」
膝を抱えて座りながらそんなことを思っていたら、お隣に、見慣れた横顔があった。教室の机がお隣さんの横顔。
「ズボン、インしといて」
「へ?」
いや、それは……。
(セクシーでした。ごちそうさまでした)
あの。
「なんちゃって」
いや。
むしろ、セクシーなのは公太のほうだから。
けれど、そんな反論を言う前に次のカテゴリーに移動だった。そして、次は――。
「さて、柚貴コーチ見ててね」
逆上がり。
「よーし、いくぞー。安藤―!」
あいうえお順、酒井公太はまだ少し後。ここまで、イケメン日向男子としてほぼパーフェクトにカッコいい公太にとっての一番の勝負どころを前に、俺も、ちょっと気合を入れて鉄棒しないとって、、チラ見せしたところで、どこも美味しくない自分の腹にぐっと力を込めた。
いーち、にー、の、さんっ。
このタイミングで足を鉄棒を軸にして、回転させる。身体は鉄棒から離さないっていう意識で。
公太が引っ掛かったのはやっぱりお尻くぐりくらいで、あとは本当にすんなりいったんだ。
最初はびっくりされてたけどさ。
下に兄弟がいて、しかも短期集中レッスンの参加メンバーがちょうどその兄弟とほぼ同じ歳くらいだったから、なんかすごい人気だった。
鉄棒できないの?
お兄さんなのに?
そう言われたのなんて最初だけ。
休憩時間に低い高さの鉄棒に子ども達、高いほうに公太がいて、楽しそうに話してるのがすごく好きな光景だった。のどかで、ほんわかしてて。
学校で見る公太はカッコいいけど、でも、あけぼので見る公太は優しくて温かくてさ。
「よーし、酒井、オッケー。はい。次、佐藤―!」
俺は、あっちの、あけぼの公太がとても。
(やった! できた)
好きなんだ。
(ありがと。柚貴コーチ)
公太が……。
「よーし、ラストは陸上なー。外出るぞー」
夏休み直前。体育館もうだるような暑さだけれど、外はもっと、干上がりそうな暑さで。
「日陰でやるが、具合悪くなったらすぐに言えよー。はい。じゃあ、五十メートル測定行くぞ。三回ずつ測定して、一番よかったタイムを残すからなー」
先生、三回もやるの? 五十メートルダッシュを?
なんか、それを聞いただけで干物になりそうなんだけど。
「あっつ……柚貴、あっちの日陰にいたほうがいいよ」
「!」
干物っていうか、なんかカラカラに干からびるよ。だって、公太がまたお腹見せるんだもん。なんかなんか……。
「……」
ほら、顔面が熱くて、日陰に引っ込んだくらいじゃどうにもならない感じに動悸息切れがしてるんですけど。
「へ?」
「桂君はどうするの?」
「え……えと……」
俺と公太にとって今日の一大イベントはこの日中のカンカン照りの中で行われた能力テストだった。
「花火大会、誰かと行くの?」
「あの」
「いかないなら、皆と一緒に行こうよ」
けれど、巷の男子も女子も、きっと夜の花火大会のほうがメインイベントで、ワクワク顔になったのもの特別授業が終わってからだった。
「お、俺?」
「うん。クラスの皆で行くんだよー」
けど、クラスの皆で? って、そういうのあんまり参加したことないんだけど。俺目立たないほうだし。
ぁ、もしかして、気を使ってもらったんだろうか。
「あー、えっと……」
さっき、公太は柴田さんに連れて行かれた。そんで、連れて行かれたっきり戻ってこない。テストの終わる時間がまちまちだから、全項目終わり次第、それぞれのクラスごとの解散だし。だから、もううちのクラスは解散してて、いつでも帰って大丈夫だし。
――公太くぅん。
声に柴犬が甘えてるみたいに可愛さがあった。
そして、折れてしまいそうな細い腕を伸ばして、小さな掌をひらりひらりってはためかせて、日向男子を呼ぶ、日向女子。
たぶん、花火大会に一緒に行こうって言われたんだと思う。タイミング的に。
「暇だったら、ぜひぜひぃ」
それがなくても公太は人気者だもんね。地元のそんな花火大会にはダントツ可愛い子からの誘いを断ったとしても、きっとクラスのあっちこっちから誘われるだろうし。そしたら、ここに参加しとくと、一緒に見れたりするのかな。
「あ、じゃあ、うん」
そうしたら、俺とツーショットは厳しくても、花火、一緒に見られる、かな。
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