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第15話 思ったんだ

 ツーショットはさすがに厳しいと思うんだ。  けど、花火一緒に見られたら、と思ったんだ。 「うわぁ、もうけっこう人来てるねー」 「あ、あっちまだスペースありそうじゃない?」  クラスの皆の中に紛れてなら、って思ったのに、公太がどこにもいない。  駅前に集合して、そこから土手まで歩いて向かった。駅から、普段なら土手までゆっくり歩いて十五分くらい。でも、今日は花火見物の人で賑わっていて、普段の倍くらい時間がかかった。  でも、公太は合流しないみたい。  こんなにたくさん人がいる中から、薄暗いこの中から、公太を見つけるのなんてかなり難しいけど、それでもいるかもって探してしまう。  スマホに連絡くるかなって思ったんだけど。それもなくてさ。  やっぱ、柴田さんと一緒に見てるのかな。 「……」  断るのって大変だもんね。 「あ、始まったー」  始まっちゃったし。 「イエーイ!」  まずは挨拶代わりの白い花火。そして、始まったことに嬉しそうにはしゃぐ歓声。けど――。 「桂君、大丈夫? あっついよね」 「あ、うん」  公太、こっちに来ないんなら。 「桂君は花火毎年どこで見てんの?」 「へ? ぉ、俺? 俺は、別に……あんま花火とか」 「えー、なんでー?」  うちでボーっとしてればよかった。 「そんなに」  柴田さんの誘い。クラスのほうに合流する気配がない、っぽい。 「……」  それとも、普通に断ったりもしなかったのかな。  っていうかさ、俺のこと、好きって言ってくれたけど、でもその後に嫌われたとかなのかもしれない? もう好きじゃなくなったとか、かも?  いや、だって相手は公太だし。公太のことを好きになる子はたくさんいるでしょ。そっちにさ、こう……やっぱ、なんていうか。 「わぁ、めっちゃキレー」  だって、そういうの断るのもさ、けっこう大変なことでしょ? 男同士で、誰にも言えなかったりするだろうし。だから――。 「桂君?」 「あ、あのさ。今日って、公太は?」 「あー、誘ったんだけどさー。無理だったぁ」 「あ、そうそう、公太ってさ、柴田が誘ったらしいじゃん」 「まじか! なんか、狙ってるとか聞いたけど、マジか!」 「だから、二人一緒なのかもねぇ」  そっか……そうなんだ……そっかぁ。あの柴田さんと。 「飲み物とか買って来ようよ。今のうちが一番良さそうじゃない?」 「あ、うん」 「あっつーい。カキ氷にしようかなぁ」  でも、そうだよね。だから、連絡ないのか。スマホ、ずっと見てたけど、いくら見てもそりゃ連絡ないよね。 「あ、タピオカとかがいいー」  土手を登って夜店の列に並んだ。  一緒にいるのか。今頃、公太と柴田さんって。 「!」  その時だった。いつか連絡が来るかもって思って握り締めていたスマホが振動した。  ――今、柚貴、川にいる?  公太だ。 「おおおお! 大きいの来るっぽーい」 「きゃああああ」  はしゃぐ声が上がる中、俺だけ音のないスマホの画面に視線を落とした。  ――いるよ。公太  そこで手が止まった。公太も来る? 来ない? 来れない? どこに、いるの?  ――公太は、川にいる?  誰と、っていうか柴田さんと一緒なんじゃないの?  ――柚貴、どの辺?  俺の場所? 場所は。そこで顔をあげた。こんな中で待ち合わせなんてかなり難しいと思う。だから、集合場所を駅前にしたんだ。土手に来たら薄暗くて絶対にわかるわけがない。  ――タピオカ、売ってる。それと風船がたくさんある。  ――皆と一緒?  ――公太、来ないの?  メッセージが被った。場所を伝えて、次に質問をしようと思った合間に、公太から質問が来て。  どっちもどっちでハテナマークがぽこりとスマホの画面に浮かんでる。  ――待ってて。  え? 公太? 待っててって、ここで? 公太は質問には答えず、ただそれだけ言った。けどさ、どんどん打ち上がる花火の音と歓声とこの薄暗がり。この中で出会える確率なんて。 「うわぁぁぁ」  でも、そんなの絶対に遭遇できないよ。 「次、たかーい!」  こんなにたくさん人がいるんだし。 「きゃあああああ」  見つけられるわけ。 「柚貴」  ないと思ったのに。 「……公太」 「こっち」 「え?」  びっくりした。突然、聞こえてきた公太の声と、突然掴まれた手。それに急に歩き出すから。花火を背にして。土手沿いから外れるように、歩き出すから。 「こ、公太?」  会えないと思ったんだ。人がたくさんいて。混んでるし。ほら、皆空を見上げて、花火に夢中だから、歩くのも一苦労だし。 「公太」  けれど、皆、夜空に打ち上がる大きな大きな花火に夢中で下へ視線を向ける人はいない。待ち合わせることは不可能な薄暗がりの中。 「こ……た」  誰もこれなら見えない。 「……」  俺らが手を繋いで歩いていたって、それを見つけることのできる人はきっといないって、そう思ったんだ。

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