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第23話 おうちデート
ま、前のめりすぎた、かな。
――行く! 明日でも明後日でも!
そうお風呂から飛び出してまでも答えたけど、なんとなく公太の声色がなんか、なんというか、硬いっていうか、ビミョーっていうか、引いて。
「……」
ないことにしよう。
うん。そうしよう。
眠いし疲れてたけど、案外、相手は元気でびっくりしただけってことに。
「……ぁ、公太……」
やっぱ、公太はハチャメチャにカッコいい。
駅の改札出てすぐとこ、ただのガードレール、ただのツツジの垣根、ただの駅前ロータリーが海外の街角なんじゃないだろうかと思えるくらいに、雑誌の一ページになる。
「柚貴!」
「!」
そんな公太がこっちに気がついて、腰をかけていたガードレールから立ち上がると手を振ってくれる。ハチャメチャにカッコいい彼氏のせいで、心臓が普通に口から出てしまうかと思ったほど。
「きょ、今日は、ありがと。あの、これ、皆で。シューアイス。保冷材たんまり入れてあるから」
「え、いいのに」
「いえいえ」
「……っぷ、なんか、親戚の会話っぽい」
だって、午前中のカンカン照りだけど、午後ほどの強烈さはまだない日差しと相まって、日向男子が眩しいから。どうしたものかと。
「じゃあ、遠慮なく。皆で食べよ?」
「うん」
「めっちゃ弟たちが待ってるから」
「うん」
「俺も、柚貴がうちに来るの、めっちゃ楽しみにしてから」
「!」
ホント、どうしたものかと。
「……って、シューアイス、だっけ? 溶けるよね。今日もあっついし」
うん。かなり暑い。俺もほっぺたが今現在どうしたものかと思うくらいに熱くて仕方ないし。
「行こっか」
「ぅ、うんっ」
ほっぺただけがさ、異様に、特別熱いんだ。
やっぱ、すごい、この四ちびっ子の勢力たるや。
「ぎゃー! またクラッシューした!」
「ジャンプのタイミング、おっそ!」
「もーユウタたち下手すぎ」
「次―! 柚貴にいちゃんの番!」
「えっ? 俺? も、ちょっと休憩」
俺、高校生だけど、もうなんか、叔父さんになった気分。
「うおおおお! 公にぃ、いけえええええええ! 女子班を蹴散らせええええ!」
それに比べて、公太すごいな。ユウタを肩車したままカーレースゲームしてる。これ、コントローラ握って右左ってけっこう身体を動かすのに。肩に乗っかって、自由に足も手もバタつかせるユウタ君にグラつくこともなく、そのままちゃんとレース操作してるなんてさ。
「うるさーい! ユウタ黙れー!」
ちょっとお転婆なとこもあるリナちゃんがゲーム画面の中、真っ赤はレースカーのアクセルをふかせた。マナちゃんは淡々とレースをしていくタイプなんだけど、容赦ない攻撃をしかけるのはマナちゃん。とにかく速さ重視で突っ走るのがリナちゃんだ。個性が出るなぁって。
それで公太は、上手だよね。
運動神経、やっぱいいんだと思う。誰にぶつかって相手を失速させるわけでもなく、物に体当たりをすることもなく、ただスルリスルリと障害物をかわして進んでいく。
「あああああ、もう、公にぃ、上手すぎ」
「へっへー! 今日の公にぃは一味違うんだぜ。なぜなら」
「ユウタ、お前、アイテム取らなさすぎ。ほら」
「うわあああ、急に動くなよ、公にぃ、落ちる落ちる」
「ほら、お前だけまだAランク」
公太がゲーム画面の前に肩車で上に乗っかっているユウタを傾けた。落っこちると慌てるユウタの足をしっかり掴んだまま、ほれほれって。
その間に劣勢を強いられていた女子班がするすると二人それぞれの車のあっという間に追い越していった。
そして、結果は女子班の……とはならず、巻き返しに成功したユウタ君の勝利。
「あー、もう! やだー」
「……よし」
「? 柚にぃ?」
「次、本気で行くから!」
半袖Tシャツだけど、気持ちは腕まくりくらいのテンションで。
俺、けっこうゲーマーだから。けっこうなインドア派。器械体操もある意味インドアでしょ? クラスでも仲の良い奴らは基本ゲーム仲間だし。普段の放課後はゲーム三昧だからさ。
「行くよ! マナちゃん」
「うん」
「リナちゃん! 応援してね!」
「うんっ!」
女子班だって、レースゲーム勝っちゃうから。
テレビ前、右側を男子班、左側を女子班。後方応援席にはショウタ君とリナちゃん。
「よおおおおし!」
画面には「Ready?」の文字。
ピーっていうけたたましいホイッスルと同時、赤とオレンジ、女子班のレースカーと、男子班のグリーンと青の男子班のレースカーがスタートフラッグのはためきと共に四台の車が一瞬でトップスピードに乗りコースの中を疾走した。
「……」
どこに座ればいいんでしょう。
「?」
こ、こっち? この椅子? 勉強するわけでもないのに、いきなり公太の勉強机に座って、陳列された教科書とにらめっこ? え? おかしくない? って、じゃあ、部屋の中央? 鎮座感がすごいと思うのでやめておこう。じゃあ。
「……」
じゃあ、ベッド。
「っ」
な、ないないない。ないでしょ。ベッドの端っこに腰かけるとか、なんか、どうなのだろう。寝床を椅子の代わりにしたら、失礼なんじゃないかな。うちに井上とかが来た時は、えっと。
「お待たせ。ウーロン茶でよかった?」
ぎゃあああああ、座る場所がまだ決められてなかった。めっちゃ立ったままウロウロしちゃってる。
「ぁ、ごめん、テーブルとかないんだ。狭すぎて。どこでも座って? ベッドでも椅子でも机でも」
「じゃ、じゃあ」
机には座らないし、椅子に座ったら、なんか変な景色になるし。ベッドは……うん。普通に普通。
「し、失礼します」
そうお辞儀をして、部屋の真ん中に座った。っていっても、本当に狭くて、ベッドと勉強机でいっぱい。もう一人はゴロ寝をするスペースもないくらい。だから、なんかベッドと壁の間にちょっとお邪魔しているような感じ。かくれんぼをするには最適、かもしれない。
「うん。どうぞー」
公太は緊張したり、しないか。自分の部屋だもんな。そりゃそうだ。
「ぁ、これウーロン茶。それと、ありがと。いただきます。シューアイス。ちょっと溶けてるかも。あいつら、めっちゃ選ぶの時間かかるもんだからさ。うちらは抹茶で」
「うん」
あとはチョコレートと苺、バニラにヨーグルト。全部味を統一しておけばよかったかも。
「あ、すげ、うっま!」
「ホント? よかった。ここの好きなんだ」
「へぇ、すごい、柚貴」
「や、俺がすごいわけ……じゃ」
指、ドキっとした。
「……ぁ」
少し溶けかかったアイス。それが指について、舐める仕草に、その、すごく。
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