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第24話 エイリアンが襲来
公太のうちに遊びに来たのは二度目。
一度目はボウリングに行こうって言ってたんだけど、マナちゃんが大事な指輪をなくしちゃって、公太は親戚のうちに面倒を見てもらえるように頼んでたんだけど、大事な物を失くしたと泣く妹をそのままになんてできるわけがなくてさ。一緒に探して、お腹が空いたからって、俺がチャーハンを作ったんだ。そのあともたくさん皆で遊んで楽しかった。
けど、まだ俺らは付き合う、直前だったから。
「……ぁ」
今は、もう付き合ってるから。
「……」
色々違ってる。
二人っきりで、部屋で、彼氏が口のとこにアイスをつけてる。緑のアイスなんてさ、相手がただの友達だったら「お前、エイリアンになってるぞ」って笑っておしまい。
けど、相手が彼氏だから。
「……ン」
緑のアイスはエイリアンにならなくて。
「ン、ふっ」
甘くてほろ苦いアイスでしかなくて。
「あっ……ン」
二人の舌先であっという間に溶けてなくなった。
「こ、た?」
どうしよ。これって、キス、だよね。
「あっはぁっ……ン」
キス、なんだよね?
「ンっ……ン」
舌先が絡まり合って、公太の舌が俺の口の中でくちゅくちゅ音を立てて暴れてる。抹茶味の舌。
「……ン」
はっず。何、今の声。
「っ」
唇が離れる瞬間、ちゅるりと唇を舐めてバイバイをした舌先のせいで、自分の声じゃないみたいなのが零れた。
「あの、こ、た……」
「……」
「ンんん」
口を開くと、舌先を差し込まれて言葉が止まる。角度を変えて、口の中をまたぐちゃぐちゃにされていく。息継ぎみたいに、少しだけ開いた口でいっぱいに空気を飲み込んで、そしてまた齧り付くようにキスで呼吸が止まる。
「は、はぁっ……ぁ」
続けざまにしたキスでもう唇のとこがびしょ濡れだ。
「公太……」
俺も公太も、びしょ濡れ。そしてどっちも齧り付くようにキスに夢中でアイスのことなんて頭の隅っこだ。夢中すぎて、気が付けば、力も体格も俺よりちょっとばかり、いや、けっこうかな、勝ってる公太に押し倒されてた。床の上で、公太が前のめりになってるから、いつもは爽やかで眩しい日向に陰が差し込んでいる。
すごくキスに夢中だったのに、ぴたりと止まって固まった熱量。
「公太?」
「……」
「こう……」
「好きだよ」
うん。俺もだよ? なんで? 急に。
「柚貴のこと、すごい好きだ」
「……」
「ご……」
え? 何? 今、なんて? そして、なんでそんな辛そうな顔をしてるの?
「公太? 今」
ね、なんて言ったの? そう聞きたかったのに。
割り込むように聞こえたユウタの泣き声に俺も公太も飛び上がった。何々喧嘩? って思ったら、べっちょり落っこちたバニラアイスとその隣に泣いてるユウタ。
やっぱり少し溶けてたから。冷凍庫に入れてはみたものの、まだ氷きれてなったんだろう。ユウタが選んでじゃんけんで勝ち取ったバニラアイスが半分くらい、その手から零れ落ちてしまっていた。
「オレのおおおお、アイズがああああ」
畳の上にぺしょりと横たわるアイスに号泣してた。
「ほら、ユウタ君、これ、抹茶だけど」
「まっぢゃ……にが、じゃんっ」
一番活発で一番お兄さんっぽくて、一番しっかりしてそうだったけれど、可愛いなぁ。
「抹茶、これはめっちゃ美味しいんだって。イチオシはこの抹茶です、だから二個買ってきたし」
「……」
「ホント、めっちゃ美味しい抹茶なんだってば」
「……駄洒落がオヤジっぽい」
「は?」
鼻水をキラリとその鼻の穴で光らせて、ちゃんと子ども子どもしてる。
「べっ別に狙って言ったわけじゃ」
「オヤジギャグだ」
だーかーら。
「布団が吹っ飛んだ」
「……」
「レモンのいれもん」
「……」
「バッタがバタバタ」
「っ」
「イカはいかん、いよかんは良い予感」
「っぷ、あははは」
最後のはもうやっつけ仕事な駄洒落になった。
「ほら、ユウタ君はこれ、食べて? っていうかさ。ねぇ、公太、スプーン貸して?」
「スプーン?」
「うん」
だって、ほら、もうちょっと溶けてるじゃん?
そんでせっかくばらばらの味にしたんだから。せっかく皆でそれを食べるんだから。
「これ、皆でアイスだけ食べ比べできそうじゃん」
「ホントだー、柚にぃ、あったまいいい」
「うんうん。ぁ、私、苺も食べてみたーい」
「オレもチョコレート」
「僕は抹茶」
泣いた子がもう笑ってた。そしてショータ君と仲良く抹茶のアイスの取り合いを始めてた。
「ね、公太、公太は? どの味が好きだった?」
「……」
「公太。公太ってば」
「! ぁ、えっと……俺はチョコ、かな」
「……」
ボーっとしてた? 口元に手を添えて、少ししかめた顔。抹茶、苦手だった? それとも、もっと別のことで、何か考えて――。
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