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 俺たちが出会ったのは、婀都理が働いているバー『ヘブン』だ。婀都理が二十歳になって、夜のバーのバイトにも出る様になった頃だった。  何時ものように、仕事終わりの金曜日。俺がバーへ足を運ぶと、見慣れない店員が一人いて、馴染みのバーテンダーに声をかけながら話したのが最初だ。  話してみれば、婀都理は二十歳のわりに博識で十八も年が離れているのに、会話が嫌に途切れることは無かった。バーとして大切な無言の時間だってある。目の前で、黙々とグラスを磨いている婀都理と居る事は、苦痛ではなかった。  当時の俺は、年相応の年代の人と付き合ったり別れたりしていた。  だが、思っていたのと何か違う、と言う理由やセックスの相性が良くなかったりなど、様々な理由でフラれる事が多かった気がする。  そんな時、決まって俺は婀都理の居るバーへと顔を出していた。それこそ、婀都理の居ない時から常連として。  そんな俺と婀都理が関係を持ったのは、出会いから約一年が過ぎた頃だった。  その日、三カ月付き合っていたやつの前に、運命が現れて俺があっさり捨てられたのがきっかけで、いつものバーじゃなく居酒屋でグダグダになるまで飲んでたところに、バッタリと出会ったんだ。 「……鳥岡さん?」 「んぁ?あぁ、やしゃかくん」  どことなく、彼とあのバーではなく会えたことが嬉しくて、思わず笑ってしまう。  バーで会う時よりも、格好も雰囲気も学生っぽい。 「すごく酔ってますね……大丈夫ですか?」  一緒に来ていただろう友人に断りを入れてから、カウンターで飲んでいた俺の隣に腰を下ろした彼は、俺の背を撫ぜて水を渡してくれた。  飲んでいた酒と引き換えに。 「おれの、さけ……」 「何があったか知りませんけど、飲みすぎですよ。もう、お酒はダメです」  そう言うと、婀都理は俺の残っていた酒を一気に飲み干してしまった。  俺が大人しく水を飲むと、婀都理はニッコリと笑う。  俺が少し落ち着いた頃に会計を済ませ、タクシーに乗り込んだ。  けど、酒でまだ酔っているのと眠いのと悲しいのとで思考がはっきりしない俺は、自宅の住所を言えるはずもなく、仕方なしに婀都理が自分の家へ連れて行ってくれた。  実家から大学まで遠く、一人暮らしをしている婀都理の家は、実家の影響か、ファミリー向けマンションの一室だった。親戚の持ち物で、安く借りている、とか。  俺を寝室に運んでくれた婀都理が離れていきそうになったんで、思わず引き留めてしまった。  婀都理はそんな俺に驚いて、ベッドへと尻もちをつく。  何が起こったのか、いまいち把握できていないのか、目を白黒させて俺を見た。 「ちょ、鳥岡さん?」 「……んー」  勢いで、俺を見ている婀都理の首に手をかけてキスを仕掛けた。  触れるだけの簡単なもの、ではなくがっつりと。  驚いていた婀都理だったが、俺が口を離す事は無いと分かれば、そのまま俺の舌を押し返して俺の口腔内を蹂躙した。学生の癖に、どこでこんなテクを身に付けて来るのかと、むきになったりもしたけど、やっぱり気持ち良かった。  唇が小さく音を立てて離れると、婀都理は小さくため息を吐いた。 「……鳥岡さん、俺の事からかって遊ぼうとしてます?」 「遊ぶ?何で?俺はただ……」  ただ?と婀都理が聞き返してくる。  が、言っても良いモノか少し迷う。人の恋愛事情など、面倒なだけではないか? 「……ただ、慰めて欲しくて」  少しの間躊躇い、考えたあとやっぱり話してしまった。 「慰めて?何があったんです?」  心配そうに俺をのぞき込んできた婀都理。片手で、俺の背中をゆっくりと撫でられる。 「付き合ってた奴に、運命が出来て……捨てられた、から」 「……好きだったんですか、その人の事」  婀都理の顔が不機嫌そうに、歪む。美形だから、その分迫力もすごい。 「さぁ……分からない。でも、捨てられて悲しむくらいは、好きだったんじゃねーかな?」  自嘲気味に笑えば抱きしめられた。  そのままの勢いで、俺は婀都理の耳元に囁く。 「なぁ、抱いてくれよ……全部、忘れさせてくれ」 「……っ、どうなっても、知りませんよ?」  苦々しく言った婀都理に、俺は身をゆだねた。  発情期でも無いのに、乱れまくって、気が付けば番にされていた。  翌日、目を覚ました俺に婀都理は言った。  俺と婀都理は運命だと。俺には恋人が居たし、何よりも俺が婀都理に運命を感じていない事を見抜かれていた。  だからこそ、今番にした、とも。  恋人に捨てられ、次の恋人も定まっていないこの時期に。  俺を選んだのが運の尽きでしたね、とにっこり笑った婀都理の笑顔がとてもうすら寒く感じたのを、今でも覚えている。

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