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「向こうで待ってろよ、毒なんか入れないから」
東洞はそばに立って様子を窺っている。
「いえ、作っていただいてるのに、休むわけには…あと貴重な料理する国近さんの姿を見ていたいです。…それに、近くにいたいから…」
最後にぽそっと囁く東洞。
「どーせオーラだろ?ったく…邪魔するなよ」
東洞にとって俺のオーラは良質な充電器か何かなんだろう。
「はい」
またニコッと笑う東洞。
1時間ほどして東洞用のメニューが完成する。
野菜中心だが、調理方法と味付けを工夫して、食欲を出させるため、見た目も美味そうに盛り付ける。
テーブルに並べ、余ったものは自分も弁当と一緒に食べることにする。
「国近さんすごいです、料理上手いんですね!」
ずっと調理を見学していた東洞は目を輝かせている。
「まあな、独身長いと色々身につくもんだ」
「僕、全然出来ないんで尊敬です」
「いや、まあ、お前の口に合うか分からないし…でも冷凍チンよりは幾分マシだろ」
「いただいていいですか?」
待ちきれない様子で、聞いて来る東洞。
「ああ、じゃ、食おうか」
笑いながら促してやる。
「はい!いただきまーす」
「…いただきます」
「うん、美味しい!…これも!」
嬉しそうに箸を進める東洞を見ると、作ってやった甲斐があったと思える。
「国近さんすごいです、天才ですね!」
「褒めすぎだろ、何もでないからな」
「ふふ、国近さんはいつも料理してるんですか?」
「まあな、家帰っても暇だしな、自分の好きなもの作って食べているうちに、色々作れるようになった」
「すごいです、それに…料理に国近さんのオーラが残ってて本当にあたたかい料理です」
「そうか?気に入ってもらえたなら良かったよ、これで少しは食欲出たか?」
「もちろんです、全部食べます!」
大きくうなずき…
ニコニコしながら答える東洞。
「ふ…俺に息子がいたらこんな感じなんだろうな…」
なんだか子どもに餌づけしているようで…可笑しくなる。
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