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第52話

奥の間へ… 「…お父さん、お母さん…」 奥の間にある両親の位牌に、語りかける。 『尊…、お前、結界が…、また優志を怒らせたのか?』 位牌から姿を現した父親… 『前はいつだったかしら?』 そして母親も… 『優志にちゃんと謝って結界をかけてもらいなさい』 「けど、僕…仕事に行きたいし、国近さんにも会いたい…2人からも優志さんに言って、国近さんは大丈夫だって…」 国近さんを見せたことがある2人なら、分かってくれると思って頼むが… 『尊…父さんも優志と同意見だ、仕事は行かなくていい…見鬼の目をもち、霊媒体質では、外で普通に働くのは無理なんだ…』 『そうよ、大学に行かせてもらえただけで充分でしょう』 「……」 首を振るが… 『優志も、お前がこの家の結界の中にいる方が安心するんだ…分かるだろう』 「父さんは…それで満足だったの?屋敷から出られず…外の世界を知らないまま死んで…僕は嫌だ…僕は…」 そう想いをぶつけるが… 『霊媒師として生まれたからには、その責を果たさなければならない…父さんはちゃんと責任を果たせたから後悔はない』 「……」 『そうよ、この家に生まれたからには、この家の者の生き方をしないといけないの、貴方も早く伴侶をもらって跡継ぎをもうけなさい…』 母親は、やはりそう言い聞かせてくる。 「そんなの…こんな自由のない一生を送らないといけないなら…僕は、ッ…」 尊はそう叫ぶと、奥の間から逃げるように走り出す。 『尊!待ちなさい』 『…尊!』 両親の制止を振り払い…自室へ戻った尊。 「ッ…ふっぅ…」 結界がない不安感もあり、涙が止まらない… この家には僕を分かってくれる人はいない… 僕の本当の気持ちを…分かってくれる人は… 『誰も悪くないんだから、いつかアイツにも分かってもらえる、そうしたら、またメシ作りにいってやるから…元気だせよ』 優しい国近さんの言葉が… 胸を打つ… 分かってもらえる日なんか…来るはずない。 「国近さん…っ」 「…ッ、助けて…国近さん…」 布団に伏せながら… 呼んでしまう… 優しいひとの名を… 会うことすら叶わない… 生かされているだけなら、生きている意味なんかない。 好きなように生きたい… 誰にも縛られず… 自由に…

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