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第55話
優志はすぐ尊を見る。
「尊ッおいッ何体入った!?このバカが…」
ぐったり意識を無くす尊に呼びかけるが…
「……」
「とりあえず移動…」
尊を抱き上げ、走って正門をくぐり敷地に入る。
禊場で身体を清めさせたかったが…
屋敷に入る寸前…
突然、尊が暴れ出す…
「ッ…尊ッ!」
抱えていられず、手放してしまうと…
「うヴ…ぐぅぅ…がぁぁ!!」
その覚醒した尊の容貌は…野生の獣のように鋭い目つき、歯を剥き出しに…唸り声をあげ四つん這いになり威嚇してくる。
「ちッ…尊ッ!目を醒ませ!!」
優志は符を尊に向けて、放つが…
「ぐぅぅ…がぁッ!」
それを素早く避け、四つ脚で駆け出して襲いかかってくる。
「ッ、くそッ!」
二歩ほど下がり…
引っ掻いてくる尊の腕を掴んで受け止め…
「…ッ目を醒ませッ尊!!」
瞳を重ね、必死に叫ぶが様子は変わらない…
尊は暴れて優志を蹴飛ばす。
「…ッ、一線ッ!!」
後ろに倒れこみながら、再び一線を放つ…
それで若干怯んだ尊に向け…
「一線より下方、魔のもの取り憑きし彼の者の通過を遮る壁を建て!発ッ!!」
そのまま符を掲げて唱え結界を発動する。
すると尊は、ある一定の場所から此方へ来られない様子で、檻の前をウロウロするライオンのごとく…
四つ脚で…唸りながら歩き回っている。
「はぁ…何が何体取り憑いてんだ?動物霊が複数入ってんのか…ったく無茶しやがる…」
ため息を尽きながら、尊の様子を見る。
「はぁ…とりあえず尊の身を清めて、目を覚まさせないと…俺は魔のものを滅することは出来ないしな…尊が自力で排出させるしかないから…」
こういう時、力足らずな自分を悔やむが仕方ない…
尊が取り憑かれて意識がない状態…
焦りが判断を狂わせないよう…
息をつき、冷静さを保つため、自分に言い聞かせるように呟く優志。
「…がぁぁ、ぐぅぅ…」
相変らず獣のような尊…
その様子を見つめ…
「早くしないと、こいつの体力が持たないだろうし…」
優志は、尊を目醒めさせるため、禊場の清め水を汲み…少しずつ尊に浴びせて身体を清めて、声をかけながら覚醒を促していくのだった…。
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