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第93話
「そうか、ならお前に少しでも信じてもらえるよう頑張るよ、とりあえず俺は、霊能力があるからといってお前たちに偏見は持っていないし、むしろお前たちの生き方を尊敬しているくらいだから…」
「……」
「それは伝えておくよ」
その後は、言葉を交わすことなく時が過ぎ…
しばらく無言で走行していると…
俺にもたれて眠っていた東洞が不意にうなされはじめた。
「う…、うぅ…」
「ん?東洞…」
そっと呼ぶが…
「……ぅ、嫌…、」
顔を歪め、辛そうな東洞…。
「天河守、東洞がうなされてるが、起こすか?」
とりあえず優志に窺う。
「……いや、」
首を振る優志だが…
「…イヤ、…う、…助けて…ゆずきく、ん…」
東洞は、ポツリポツリと言葉を発する。
「ゆずき?」
最後の言葉は誰かの名前のようだ。
「チッ…お前の手のひらで尊の額と眼を包むように触れてやれ…」
その名を聞いて優志は苛立ったように舌を打ち、指示してくる。
「え?…こうか?」
言われた通り、そっと東洞に触れてやる。
「う、ぅ…ハァ、……、」
しばらくすると、うなされていた東洞の呼吸が落ちついていく…。
「……落ちついたようだ」
触れただけで、何故だかわからないが…
「……」
「ゆずき…って」
東洞がこぼした言葉が気になり…何気に聞くが…
「ッ、…今でも尊を苦しめているのは一般の人間だ、妖怪や霊よりたちが悪い」
今まで一番怒りのこもった目で、吐き捨てる優志。
「…どういうことだ?」
「チッ、なんでもない…」
それ以降、優志が話し出すことはなかった…。
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