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第97話

「東洞…?」 「…なぜ、その名前を…?」 さっきとは別人のように抑えた声で問い返してくる東洞。 「いや、お前が今日車で寝てるとき、うなされて呼んでた名前だったから…」 「……」 珍しく固まり、答えられなくなる東洞。 「どうした?聞かない方が良かったか?」 そんな様子に、質問を取り消そうとするが… 「いえ、…柚木くんは、昔の友達だった人です…」 東洞はポツリポツリと応える。 「だった?」 「……、ごめんなさい…彼の事は、あまり思い出したくないんです」 俯いて話す声は震えていて… 「お前、震えて…、いいんだ、答えたくなければ答えなくていい、大丈夫だから…」 前で組んだ両手も小刻みに震えていて… いつもの東洞とは、あきらかに違っていた… 俺は席を立ち、東洞のところへ行って… 肩をだき、震える両手を包み込むように握り…そう言い聞かす。 「すみません…」 「謝らなくていい、悪かったな、嫌なことを聞いて…」 「いえ、…ありがとうございます」 触れられて、温かいオーラに包まれると、強張る身体も力が抜けて行く… 「温かいオーラ…国近さんは、変わらないでくださいね…」 「東洞…」 は、と言うことは、話の流れからゆずきと言う奴は変わってしまったということだろうか… 気にはなったが、東洞の様子をみると聞くことはできなかった。 その後、しばらくたわいない会話をして、今日は帰ることにした…。

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