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《昔のハナシ》
玄関まで見送りについてくる東洞。
いつものニコニコした笑顔…
「ここまででいいから、ちゃんと晩飯食えよ」
「はい」
こくんと頷く。
「今日は早く寝て、あ、朝飯も忘れるなよ」
「はい」
「仕事、遅刻せずに来いよ」
東洞を見ていると、ついつい世話を焼いてしまう。
「ふふ、はーい、大丈夫です、国近さん、また来てくださいね」
ニコニコしながら手を振る。
「あぁ、じゃまた明日な」
「はい、お気をつけて」
心配しながらも東洞に別れを言って、屋敷の門を出る。
しばらく歩いて駐車場へ…
「おい…」
不意に声をかけられる。
「うわっ、居たのか…何で入ってこないんだよ…」
優志が、暗闇の中、屋敷の外壁を背もたれにして待っていた。
「尊に近づき過ぎるな…」
いきなりキツく言い放つ優志。
「…そう言われても、東洞がな…」
懐かれてしまっているから、無下にするわけにも…
「尊は…人を疑うことをしない…いや、出来ないんだ…」
「出来ない?」
「綺麗なものを好きになり、感じたまま行動して…時には自己犠牲もいとわない…」
「……物事に対して純粋なんだろうな」
東洞は、真っ直ぐなやつだ。
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