204 / 300
第205話
「東洞、落ち着いて、今すぐって訳じゃないんだからな、」
山岸の言葉で我に返り、両肩を持って離そうとする。
「今でも後でも嫌です」
しかし、離れようとしない。
しがみついてくる東洞を、つい撫でてしまいそうになり、首を振り息を吐いて…
グイッと東洞を引き離し…
「離れろ、大人ならこんな所でむやみに抱きついたりしない、ここは会社だ、仕事に集中しろ、分かったか?」
少し厳しい顔つきで叱る。
「…国近さん、ごめんなさい」
さらにシュンとする。
「分かったらいい、始めよう」
「はい」
返事を聞いて仕事を始める。
「はーい」
山岸も東洞に笑いかけ、デスクに戻って行った。
それから東洞は意気消沈したようで、話しかけてくることはなかった。
そして本日の仕事も終わりの時間に差し掛かる。
時刻を確認して東洞に声をかける。
「東洞、時間がきたから上がっていいぞ」
「あと、2枚で終わるので最後までして帰ります」
「ん、本当か?凄いじゃないか、」
「…はい」
褒めると一瞬嬉しそうにするが、また無表情になる東洞。
「じゃ、今日は最後までして帰るか」
「はい、頑張ります」
「お疲れっす、あれ?残業っすか?東洞ダメじゃなかったんですか?」
山岸が仕事を終え声をかけてくる。
山岸にも東洞に残業させないように伝えていたから…
ともだちにシェアしよう!