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第250話

「…ん、」 1時間ほど過ぎた頃、ふいに尊が目を覚ます。 「尊、良かった、大丈夫か?」 抱き寄せたまま、声をかける。 「っ、僕…」 瞬きをしながら起き上がる。 「女に捕まったのは覚えているか?」 「いえ、急に後ろから衝撃があって、そのあとは…」 「そうか、」 「優志さんは?」 はっとして聞いてくる。 「……」 優志は囚われたままだ。 「国近さん、優志さんはどこですか?」 「優志はまだアパートの中だ、俺たちを助けるために身代りになり一人残っている」 冷静に状況を説明する。 「えっ?」 「車の中にいれば安全だからと」 「なんで、なら助けに行かないと」 慌てた様子で訴えてくるが… 「あぁ、俺も今すぐにでも助けに行きたいが、倉橋先生に止められたんだ」 「え?倉橋先生に?」 「あぁ、優志に言われて連絡した、今ここに向かってくれている」 「倉橋先生が…」 それを聞いて、慌てていた尊は落ち着つきを取り戻し、俯き考えている。 「…尊」 「分かりました、待ちましょう倉橋先生を」 「たける」 「僕と優志さんは心臓の結界で繋がっています、命の危機など重大なことが起これば、僕にも分かります、優志さんは生きています、信じましょう」 そう言いながら、尊の手は震え、瞳からはぽろっと涙が零れ落ちる。 本当は今すぐにでも助けに行きたいのだろう。 「尊…そうだな、大丈夫だ」 優しく背をさすり、抱き寄せてやる。 「ん、」 頷いて、不安な心を抑えつけるように、ぎゅっと手を握ってその時を過ごす。     

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