260 / 300
第261話
「黙れ黙れ!結界は発動させぬ!」
すぐさま殴られて阻止される。
周りの騒めきも聞こえていないかのごとく集中している尊。
瞳を閉じて、大きく息を吸い…
『神降ろしの儀、粛粛と』
言葉とともに目を開き、脇に置いてある神具の短剣を右手に持って、左手で長い横髪の束を掴み、耳の横あたりで、ひと束髪を切った。
そのまま左手にある髪の束の上に短剣の刃の部分を置いて、髪と短剣を握りしめるように掴みこんだ。
「…っ東洞、」
ザクッと尊の左の手のひらは短剣により傷つき、血が滴る。
いつの間にか用意してある紅い盃に清酒が注がれており。
剣の切っ尖から盃へと赤い血が舞い落ちる。
そして剣を脇に置き、左手を開いて血に染まった尊の髪の毛を盃へと落とす。
実に痛々しい。が、尊は無表情でやり通している。
凛と響く声…。
『神と契りし一族、東洞家代々受け継ぎし血脈と共に此の血肉を供物とし、時量師神《ときはかしのかみ》其の御魂を、我が真名トウドウミコト、此の胎内へかからせ、神の御力により一切の時を止め罪穢れを祓い給へ、鎮め給へ』
(…真名?…血肉を供物?)
盃には尊の血に染まった清酒の中に髪も沈んでいる。
それを両手で掲げあげ、一礼したのち、一口、二口と口に含む。
ともだちにシェアしよう!