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第270話
生きた心地がしなかったとはこのことだろう。
「大丈夫です、国近さんが癒してくれたら死にはしません」
「いや、死にかけてたんだよ、みんな心配したんだからな」
「はい、ありがとうございます、前まではいつ死んでもいいって思ってましたけど、今は死ぬのは嫌だな」
「ん?」
「もっと、国近さんと一緒にいたいから」
「…尊」
「だから、まだ死にたくないな」
「当たり前だ、まだ若いんだから、そんなに死を身近に感じるな、生きることを考えろよ」
「はい、ありがとうございます」
そういつもの無垢な笑顔を向けてくる。そんな尊に癒されながら車を走らせる。
帰り際に優志を病院に降ろし、そのまま尊を家に送って行く。
本当は吐血した尊も病院に診せたいところだが、俺といた方が回復すると押し切られ東洞家に連れて帰った。
元気そうに振る舞う尊だが、自ら立ち上がる力はまだ戻っておらず、
介助をしながら禊をおこない、
寄り添いながら眠る尊に一日付き添った。
そのおかげか、翌朝には随分回復してきた。少し安心しつつ、朝の支度をして、尊の世話を一区切りさせる。
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