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第272話

「辞めるのは俺でいい、東洞は随分仕事に慣れてきているんだ、続けさせてやりたい、だから、少し待ってくれ、身辺を片付けてから術を受けるよ」 「……」 「正直、お前達と会えなくなるのは悲しい、けれど、ありがとうな、優志も、失望させて本当にすまなかった」 深々と頭をさげ、心から感謝と謝罪を行う。 「ッくそ!もう行けよ!!」 「すまないな」 優志だって本当は人払いの法を俺にかけたくない筈だ… 俺が裏切ったせいで… もう一度、頭を下げて病室を後にする。 そして、再び東洞家に戻る。 午後1時過ぎ。昼ご飯は済ませただろうか… 尊の様子を見に尊の部屋へ足を進める。 「国近さん?」 部屋の前に来ると先に中から気づいて声が聞こえる。 「……あぁ、戻った」 部屋に入りながら答える。 「国近さん、おかえりなさい」 尊はすぐ近寄って抱きついてくる。 「…大丈夫か?」 抱き寄せながら様子を見る。もうすっかりいつもの尊だ。 「はい、おかげで随分楽になりました」 いったん離れて、瞳を重ね微笑む尊。 「そうか、良かったな」 「優志さんはどうでした?」 「あぁ、怪我は大丈夫そうだった」 「良かった」 「…お前を危険に晒したことを怒られたよ」 「…国近さん」 「難しいな、」 もう一度、そっと抱き寄せてみる。 人払いの法をかければ、尊と、もう二度と会えなくなるのか…     

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