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《お別れ》
翌朝。
「おはようございます国近さん!」
いつも通り、会社の前で待つ尊。
「あぁ、おはよう、身体はもういいのか?」
「はい、すっかり、国近さんに充分癒していただきましたから」
その可愛らしい笑顔を直視できなくて…
「そうか…良かった」
伏し目がちに頷く。
「国近さん?」
「さ、今日も仕事頑張れよ」
出来るだけいつも通りに、尊に不安を与えないように振る舞う。
「はい!頑張ります」
デスクについて、カバンを置き、尊に声をかける。
「先に始めていてくれ、俺は社長に少し話があるから」
「はい、分かりました」
「……」
そして社長室へ…
辞表を提出する為に。
「は?え、辞表?どういうことだ」
「今日で、辞めさせてください」
「な、なぜ?理由は?」
突然のことに驚いている社長。
「一身上の都合としか」
「いやいや、お前に辞められたら困る、何が負担になった?お前につけた新人か?それならすぐに変えてやる」
「いや、東洞は関係ありません、彼はよく頑張ってくれています」
「ならなんだ、辞めるほどの何が、給料か?」
「いえ、充分いただいています」
「なら、何故だ?次の仕事は決まっているのか?」
「いえまだ、」
「なら、次の仕事が決まるまででも考え直してくれ、これは一旦保留としておく、お前は古株の中でも随分会社に貢献してくれた、仕事のことも知識は一番だ、理由も聞けずに放り出すことはできない」
「……ありがとうございます、俺もこの会社は好きですよ」
本当なら定年まで世話になるつもりだった。
「国近」
「長年、使って頂きありがとうございました」
そう社長に深々と頭を下げる。
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