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第289話
でも、ここ数ヶ月で、一生分の波風が立ったようなものだな…
東洞尊に出逢って…
楽しい数ヶ月だった。
「この歳で、新しい仕事、見つかるだろうか…」
そのまま脱衣場に移動して、シャワーを浴びるため服を脱ぐ。
浴室に入り、立ったままシャワーを浴び始める。
「……」
浴室の姿鏡に映る自分の姿をみて…手が止まる。
「……アイツに噛まれた痕…」
右肩には、尊に噛まれた痕が未だに残っていて…
「……っ、」
本当に、
アイツには…もう、会えないんだよな…。
急にその真実が、リアルに感じ取れて…
「ッ…、ったける、」
ポロポロと瞳から涙がこぼれ落ちた…
それをすぐさまシャワーで打ち流す。
泣いたのはいつ振りだろう、もしかしたら、ゆたかが亡くなって以来かもしれない…
自ら求めることを諦めてしまった、あの時から…
俺は……尊のことを、こんなにも…好きになっていたんだな…
「っ…ふ、ッ…」
自分がこんなにも未練がましい人間だったことも、今、初めて知った…。
それからしばらく、流れ落ちる涙が止まることはなかった。
人に与えた厄災は巡り巡って自分に返ってくる。
ゆたかを不幸にした代償だと、自分に言い聞かせ、その夜は何も考えないように眠りについた……。
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