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第294話

「……」 優志をじっと見つめたまま、ゆっくりと法具の剣を渡す。 「はぁ、っ、」 受け取ると大きく息をついてすぐに鞘にしまう。 「優志さん、お願いします」 尊は真剣に優志を促す。 「…はぁ、分かった、電話する」 大きな溜息をついて、そう答えるしかない優志だった。 尊の目の前で国近に電話をかける。 『はい、優志か?』 「あぁ、今どこにいる?」 『川の近くだな、この術は凄いな、意識とは別に心がざわめいて家には居られなくなった、尊が出社したからだろうけれど、どこに行かされるのかと思って赴くまま歩いているが、朝からずっと川沿いを上流に歩き続けているんだ』 「分かった、向かう、道路は近くにあるか?ひとまず道路に出て近くのバス停で止まっていてくれ」 『?あぁ何かあったのか?』 「会ってから話す」 短い会話を終え、電話を切る。 「国近さんはどこに?」 「川の近くを歩いているそうだ、ここから一番近い川…出勤から1時間弱、この辺りか」 地図を広げ、予想される場所を割り出す。 「川?大丈夫なんですか?」 「バス停に移動するように言った、大丈夫だ」 「国近さん…」 禁術をかけられた国近のことが心配で仕方ない。 「尊、なぜ、お前は国近にそんなに執着する?」 そんな様子を見て疑問を投げかける優志。 「僕は国近さんが好きなんです」 「国近のオーラだろ?」 「いいえ、国近さんのことが好きなんです」 オーラだけじゃない、国近さんのこと全部大好きで恋人同士になれたのだから。     

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