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四本目は救いを_04
体育祭花形競技で最後の種目、組別対抗リレー。赤組はトップバッターがあゆさん、アンカーが四信先輩という最強布陣だ。中間の俺やいっくんはへらへら走っても勝てそうな気がするけれど、そんなことしたら今日のいっくんは俺を容赦なく殺しにかかるだろう。今まで二番を貫いていたいっくんが、初めて一番を目指す。それを邪魔したらぜったいにいけない。
「ちゃんしーパイセーン! あゆさーん! リレーもよろっす! ぜってぇ勝ちましょうね!」
楽しげに笑い合いながらストレッチをしている四信先輩とあゆさんにぶんぶん手を振って歩み寄る。
「七緒ー! 五喜! 有終の美飾ろうぜ!」
「ユウシュウノビ? プロレスラーみてえだな!」
有終の美がどうしてプロレスラー?
あゆさんの言葉に四信先輩と首を傾げていると「歩六さんが口にしたユウシュウノビと長州力は響きが似てますね」といっくんがさらりと答えた。いっくんの翻訳力、ぱねぇ!
「それ! さすが眼鏡なだけあるな!」
「伊達眼鏡ですけどね」
あゆさんの言葉ににっこり微笑みながら、いっくんの目はちっとも笑っていない。だけど、あゆさんにはそういうのはまるで通じない。そこがあゆさんの短所であり、長所だ。
「そういえば歩六さん、さっきの借り物競走のお題はなんだったんですか」
「あ、それ俺も気になるんすよー! ちるちる教えてくれなくて!」
「げっ、それいま聞くのかよ!」
あゆさんは気まずげに頬を掻くと、あーだのうーだの唸ってから「……学園で一番の色白金髪美人をお姫様抱っこ」ぼそりと呟いた。口にしてからも照れくさいのか、ふわふわした銀髪をぐしゃぐしゃと掻き乱して、いつも以上に大きな黒い瞳は垂れ下がっている。
学園で一番の色白金髪美人を、お姫様抱っこ。これでもかとパワーワードが入ったお題に軽く噴き出す。なるほど、確かにちるちるは学園で一番の色白金髪美人だ。
「それはちるちる一択っすね!」
「だろ?! なのに白金のやつ、こういうお題なら異性を連れて行くものだろ、なんて言うんだぜ! あいつ以上の美人とかこの世にいなくね?」
大真面目な顔をして、あゆさんが怒っている。
ちるちる以上の美人はこの世にいない――そんなふうに断言するって、あゆさんはちるちるのことが好きなのかと勘ぐってしまう。
だって、俺の目には四信先輩がやっぱり世界で一番可愛く映る。きっと、いっくんの目にはカズちゃんが一番。誰だって、好きな人が世界で一番可愛くて、美しいのだ。
「確かに三千留は美形だよなー、でも旺二郎も負けてなくね? あいつ、まるで彫刻だよな!」
「神谷? あいつ、腹立つくれー美形だよなー、そのくせDTってやべーわ」
「歩六下品だわー、旺二郎は童貞守り抜いていっそカッケーだろうがよ」
「そうかー? あの顔でDTやばくね? 白金はぜってーDTだと思うけど」
「むしろあの顔で童貞ってのがポイント高いだろ。まさしく旺二郎って感じ!」
ちくちくちく、四信先輩のやわらかい言葉がトゲになり俺の心臓を何度も突っついた。
ここで、おうちゃんの名前をださないでほしい。まるで、四信先輩がおうちゃんのことを好きみたいだ。
「おうちゃんもマジ美形っすよねーDTなのもいっそ尊敬なやつー! だーけーどー、俺もカワイイっしょ、ちゃんしーパイセーン!」
嘘みたいに明るい笑顔を浮かべ、四信先輩の腕に絡みつく。あくまでふざける後輩のふりをする。そうでもしないと俺の心が壊れてしまう気がした。
「あったりまえだろー七緒は俺の可愛い後輩だからな。あっ、五喜もな!」
「四信さん、僕は七緒のついでですか? 寂しいなぁ」
「だって俺のほうがちゃんしーパイセンと仲良しだし!」
「七緒のことも五喜も可愛いぜー! なっ、歩六!」
「いや俺はお前らのこと別に可愛くねえわ」
「あゆさんドイヒーっす!」
ちっとも寂しく思っていなそうないっくんに四信先輩と一緒になって笑い、俺たちのことを心から可愛いと思っていないのであろうあゆさんにもっと笑う。
そうすることで、少しずつ心臓に刺さったトゲが抜け落ちていく。だけど、一度刺さった痛みはなかなかとれそうになかった。
「白金の坊ちゃんにライブを開くこと伝えてきたわ」
有終の美を飾った体育祭後、いつものようにスタジオへ遊びに行くとさらりと音八先輩にそう言われた。
みんなの練習がついに花を開くのかとわくわく胸が踊る。すり減っていた心が、音速エアラインのおかげでゆっくりと回復していく。これじゃあ敏腕ジャーマネというより、ただのファンだ。
「マジっすか! いつにするんすか! バイトいれねぇようにしよー……って言っても、俺は客じゃないや」
スペシャルライブの客はちるちるとブリュネットの美女二人。スタッフとして見守りたいけれど、さすがに舞台袖で見るのは遠慮しておこう。俺は『空気が読めるなっちゃん』なのだから自重すべし。
「ナナも俺たちの仲間でしょ――舞台袖で見守ってほしい、って言いたいところだけど、今回のライブだけはごめんね。もし、ナナになにかあったら俺はミチルに顔向けできないから」
自重しようと思っていた俺の肩にぽんっとちいちゃんの大きな手が置かれた。なにかあったらの真意が俺にはわからないけれど、音八先輩はわかっているのか、静かに口を閉ざす。
少ない練習時間で、ちいちゃんはボーカルとしてめきめき成長している。それは、ちるちるへの愛がなせる技。ちいちゃんはサイコロを全力でふり、チャンスの前髪を掴もうとしているのだ。顔かたちだけじゃなくて、中身まで格好良いなんてずるいなぁ。その格好良さを生で見たかったけど、しょうがないと肩を落とす。
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