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七本目は変革を_06

「七緒、告白大作戦は今日決行するぞ」  あまりに空が美しくてセンチメンタルな気分になっていたけれど、ちるちるの言葉でぽーんと飛んでいく。 「えっ?! 今日?!」 「鉄は熱いうちに打てと言うだろう」 「そうだね、うん、マジそれな! そうだ、もうすぐテストだからみんなで勉強会するってのはどう?」  二人で作戦を立てながら、都度いっくんにもラインで共有する。この作戦にはいっくんの協力も必要だ。だけど、いっくんには「俺が一歩踏み出すために協力して!」と大分ぼかしてメッセージを送る。  まず、いっくんに「もうすぐテストだ」と話をふってもらう。優等生キャラのいっくんが言えば一番自然だ。その流れから「赤点だったら夏休みが潰れるよ。ちゃんしーパイセンの応援に行けないよ」とおうちゃんに真剣に語りかける。そういえばおうちゃんは必ず乗ってくれるはずだ。 「だが、上野を誘うのは不自然じゃないか?」 「そこはちるちるがいろいろ煽って、自然に誘ってくれると嬉しいなぁー!」 「自然にか。七緒のことも煽ることになるが、いいのか」 「もちろん、煽ってよ。ちゃんしーパイセンも来てくれることになったら、俺、すっげぇたくさんちゃんしーパイセンに絡んでおうちゃんを煽るつもりだし」  俺にどれだけ煽られても、四信先輩のことを諦めないでいてくれなきゃ、四信先輩は譲れない。譲りたくない。今後、誰を――音八先輩を本当に好きになったとしても、四信先輩は俺の大切なヒーローだ。 「七緒の本気を旺二郎に見せるんだな」 「うん。本気でちゃんしーパイセンに告白する。そこをどうやっておうちゃんに見せるかだよねー、やっぱり盗み聞き風がいいじゃん?」 「俺様が旺二郎を煽って、部屋から抜けさせる。抜けた後は統花(のりか)に協力してもらい、旺二郎を統花の部屋に招かせる。上野はなかなか帰って来ない旺二郎を心配するだろう。そこを上野と七緒で探しに行け」 「統花様の部屋からおうちゃんがでてきた瞬間、告白するつー流れ? サイコーな作戦だね」  統花様――ちるちるに瓜二つの美貌の持ち主で、女の子を『子猫』と愛でるちるちるのお姉さん。白金家の女帝。何度あの長い足に物理的に蹴られたことか。男に対してはとことん厳しく、笑いかけられたことは一度だってない。だけど、なんだかんだ優しいところがある。きっと、この作戦にも協力してくれるだろう。  おうちゃんが統花様の部屋を出ようと扉を開けた時、それが告白のタイミング。おうちゃんの目にしっかり焼きつけ、四信先輩の心を動かす告白にしなければ、この作戦は成功しない。いくらちるちるたちがお膳立てしてくれても、俺にかかっているのだ。 「……よし、頑張る。おうちゃんをサイコーに煽って、ちゃんしーパイセンの心を動かしてみせる」  ちるちるがふっと笑った。今の笑うタイミングじゃないんですけどぉと唇を尖らせると、ちるちるはまた笑ってこう言った。 「さっきから気がついているか? サイコーと口にしていることを」  サイコー、それは音八先輩の口癖だ。無意識に音八先輩に寄せていた自分に気がついて、はっとした。ちるちるに言われるまで気がつかなかった。 「好きなやつの口癖と言うのは、自分でも気がつかないうちに移ってしまうからな。七緒、サイコーな作戦を成功させよう。旺二郎と上野のため、なにより七緒の恋を終わらせて、新たな恋と向き合うために」  ちるちるの優しい微笑みに小さく頷く。声を出したら泣きそうな気がして、頷くことしかできなかった。  俺のことも煽ると宣言したちるちるは、予想以上に俺を煽った挙句、爆弾発言をした。「音八は俺の家族だ」ちるちるは確かにそう言った。  そんなこと聞いていないんですけど? なにそれ? どういうこと?  ものすごく驚いたと同時にああ、そうかと納得した。音八先輩がたまに『三千留』と呼んでしまうこと、ちるちるに対しての愛情は家族へ向けるものに近かったこと、ちるちるが音八先輩のことを信頼していたこと、点と点が繋がり、線になった。  ちるちるのお父さんは、世界中に愛人がいると言われている。一度愛した女性は最後まで必ず責任をとり、世話をするとも。音八先輩の母親はきっとそのうちの一人。  気になることは山ほどある。だけど、それは音八先輩に直接聞くとしてだ。今は目の前の状況に集中しなければと、となりに座っている四信先輩の横顔を眺めた。  ちるちるの部屋で、四信先輩と勉強する日が来るとは思わなかった。このあと振られるんだなぁ、俺。サイコーの振られ方をしなければとシャーペンを握りしめ、どこかそわそわしている四信先輩の顔を覗き込んだ。 「ちゃんしーパイセン、ここむずかしくて」  おうちゃんがちるちるに煽られ「トイレに行ってくる」とちるちるの部屋から抜け出して数分。四信先輩は何度も扉の方向を見ては、おうちゃんのことを気にしている。ちるちるからの合図をもらうより前に四信先輩が立ち上がって探しに行かないように、必死だ。  おうちゃんが統花様の部屋から出そうになったタイミングで、ちるちるのスマホに連絡が入ることになっている。だから、それまで俺は四信先輩を引きつけなければいけない。今すぐにでもおうちゃんを探しに行きたそうな四信先輩を邪魔するように「ここ教えてください!」「ここわかんない」「あー、なんでしたっけ」繰り返し馬鹿なふりをする。本当は全部わかっているのに。

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